1月21日に始まった全米選手権。25日から男子シングルの戦いがいよいよスタート、2連覇中のイリア・マリニン選手が登場します。昨年12月のグランプリファイナルでは、4回転アクセルを含む全6種類の4回転を含むフリーに挑んだクワド・ゴッド。今季の大一番となる母国での世界選手権(3月26~30日/ボストン)、そして1年後に迫ったミラノ・コルティナ・オリンピックへと繋がる1戦を前に、メディア向けのテレカンファレンスに登場し、今季後半の戦略や、オリンピックを見据えての思いを語りました。全米選手権3連覇がかかる場面でどんな演技を見せるのか、注目です!
全米前の負傷はいつものこと
―― 全米選手権に向けての調子はいかがですか。
イリア グランプリファイナルが終わってから最初に取り組んだのは、ボストンの世界選手権に向けて、今回の全米選手権で自分が何をしたいのか、どういう戦略で臨むのかを考え直すことでした。いまはアンラッキーなことにブーツの問題を抱えていて、小さな怪我も多少ありますが、情報を駆使して自分のベストを来週、そして世界選手権にどうもっていけばいいのかを考えていきたいと思います。
―― まず、怪我はどの程度のものですか。全米選手権や、そのあとのボストンの世界選手権を見据えていると思うのですが、13ヵ月後に迫ったイベントでも金メダリストの有力候補になると思います。いまはどう考えていますか。
イリア 怪我そのものは本当にちょっとしたことで、来週の全米選手権や世界選手権に向けてオーバーワークにならないように、健康面をコントロールしていくつもりです。13ヵ月後にやってくるイベントは、ぼくもすごく楽しみにしています。いまは頭の裏側にちょっと置いているんだけど、今シーズンを乗り切って、シーズンの間に落ち着ける時間を作って、来るべき大会に向けて戦略的な計画を練っていきたいと思います。
―― 今回の開催地、カンザス州ウィチタについて。
イリア 全米のおもしろいところの1つはいろんな場所を旅できるところです。初めての州で新しい人たちと出会い、彼らがどのくらいフィギュアスケートを楽しんでくれているのかを見るのが楽しい。ウィチタに行けるのもワクワクしています。ピザハット発祥の地なんですよね。
―― 昨季あたりから自分にぴったりのスタイルを模索して、ラズベリーツイストやバックフリップなども取り入れながら芸術的な側面で努力していますが、現在の進捗はいかがですか。また、来季には理想にどのくらい近づいていると思いますか。
イリア 氷の上でぼく自身を表現するスタイルをかなり見つけられてきていると思います。それっていうのは、モダンとコンテンポラリーの動きをミックスしたスタイルで、ドラマティックであり、演劇的でもあって。そこを成長させながら、自分の演技に組み込んでいく方法を探している段階です。来年のいまごろのぼくは、自分自身に、それから自分の技術や芸術性、そしてオリンピックを数ヵ月後に控えてすべてにおいて自信に満ちていると思います。
―― 過去の大会でも何度か怪我を抱えているときがあり、心配になるような大会もありましたよね。そういったなかでも毎回試合をうまくこなしているのは、大変な状況を乗り越えるための精神的な解決策が自分のなかにあるのでしょうか。
イリア いま思うと、全米の前にこういった状況になるのはいつものことなのかなと。確かに理想的な状況とは言えないけど、毎年のことのように思います。年始は荒れるもの。グランプリと全米が終わったあとは自分を落ち着かせて、世界選手権に全力で向かっていくための時間とエネルギーを自分に与えてあげないといけないと思っています。
―― これまでスケーティングスキルについて多くのフィードバックをもらってきたと思いますが、その分、進化もすごく大きいですよね。テクニシャンとしてだけでなく、アーティストとしての自分を助けるために日々のトレーニングでどんなことをしていますか。
イリア まずは、オフアイスで鏡の前にいって、いろんな気持ちになれる音楽を流すんです。その音楽を聴きながらその場で自分の心と体が何を感じているのかを見て、ショー用のプログラムの振付にしたり、プログラムにちょっと加えていったりして氷上に取り入れるというところから始めました。それから、毎朝起きたらスケーティングスキルのドリルを1時間半から2時間くらいやってから、午後のジャンプ練習のために足首のウォームアップをするようにしています。
クワドアクセルとの愛憎関係
―― クワドアクセルを初めて成功させてから2年半くらいになりますが、いまクワドアクセルとはどんな関係と言えますか。
イリア う~ん、どうだろうな。ぼくらはとんでもない愛憎関係にあるからね。すごくうまくいく日もあれば、「あー、やんなきゃいけないのか」と思うような日もあるし、向こうが協力的でぼくに自信をくれる日もあれば、もう少し努力をほしがる日もあって。ただ跳ぶということで言えば、毎日の練習にも組み込んでやっているけど、まだエネルギーと集中力が必要な間柄ですね。
―― 最近のInstagramの投稿について教えてください。グランプリファイナルのフリーのプロトコルが描かれたパーカーをゲットしたそうですね。どうしてそのグッズを作ろうと思ったのでしょうか。また、「フィギュアスケートはアートだ。絵の描き方は人に教わるものではない」と投稿していましたが、その背景を聞かせてください。
イリア まずはグッズの話からしますね。あれはぼくの個人的なもので、6種類全部の4回転ジャンプを初めて1つのプログラムで跳んだ記念です。もちろん望んでいたような完成度のプログラムにはならなかったけど、あれは第1歩だからね。ぼくにとって完璧な構成と呼べるのは、すべての4回転を入れたプログラムです。これは、その構成に自分が初めて挑んだときに起こったことを思い出せてくれるもの。自分のトレーニングが次の挑戦にどうつながっていくのか見ていきたいと思っています。で、引用投稿の件ですね。たぶんあの瞬間は本当にシェイクスピアを感じていたんですよね。それでスケートの真実をお伝えしたかったんだと思います。ぼくはスケートをアートだと思っていて、楽しみ方も人それぞれだし、絵を描く画家のほうにもそれぞれにとっての完璧なイメージがある。だから、スケーターも同じように、それぞれ無二のスケートのスタイルをもっているものなんです。
―― クワドアクセルを成功させ、すべての種類の4回転を跳んで、誰も行ったことのない道を進むというのはどんな感じでしょうか。怖いと感じるときもある?
イリア ある意味、自分を押し上げることで、この競技をどんな場所へ引っ張っていけるのかを考えるのは少し怖いと言えるかもしれません。数年前までは、ネイサン・チェンや羽生結弦、宇野昌磨、それから鍵山優真と、ほかのスケーターの背中を追いかけて、彼らがやっていることをただ真似ていました。でも、いまは彼らの足跡を辿りながら、彼らがどうやって自分自身を向上させてきたのか、じゃあいまのぼくが自分を向上させるには何が必要なのか、そういった関係性に気がつくようになりました。いまはジャンプのテクニックを見せることが必要なのか、スピンや芸術性、創造性を向上させるべきなのか、とかね。そういったことが、よりビッグに、よりよくなっていくためにどうずればいいかを考えていく要因となって、ぼくの背中を押してくれるんです。
―― ネイサン・チェンや羽生結弦のような偉大なスケーターと比べるのではなく、自身をスケーターとしてどう定義しますか。フィギュアスケートにもたらしたもの、あなたをスケーターとして特別にしているものはなんだと思いますか。
イリア スケートのスタイルや、氷上での自分の見せ方は、そうと言えるかもしれない。重力に逆らうような、見ている人たちを楽しませられるトリックと呼べるようなものを作っているところかな。ぼくにとって大事なことは、将来、もっと多くのスケーターがそういうものをこの競技にもたらして、スケートがまた人気になって、見ている人たちみんながフィギュアスケートを楽しめるようになってほしいなと、そう願っています。
(2025年1月14日の共同取材より構成)