木下スケートアカデミーの公開練習が6月18日、練習拠点である京都宇治アイスアリーナで行われました。千葉百音、島田麻央、吉田陽菜、櫛田育良、中村俊介、高橋星名の各選手をはじめ、アカデミーのトップクラスの選手たちが練習に参加。それぞれ、2025-2026シーズンに予定している新プログラムを滑りました。選手のコメントをまじえてレポートします。
オリンピックシーズンの新プログラムを披露
アカデミーのトップ選手たちが参加するリンク練習は、ロッカーエリアでのウォーミングアップから始まった。なわとびの三重跳びで身体を温め、床を踏み切って軽々とジャンプを回る島田麻央や、ストレッチしながらアップにいそしむ千葉百音など、選手によって方法はさまざま。そこへ、直前のレッスンで練習していたカップル競技の選手たちも加わって、おしゃべりにも花が咲く。
公開練習が始まると、濱田美栄コーチ、村元小月コーチ、佐藤洸彬コーチの指導のもと、選手たちはすぐに曲かけ練習に入った。新しいシーズンに向けた新プログラムを手にした選手たちは、すでに振付が身体になじんでいるようで、ジャンプも入れながら順番に曲かけ練習を披露。千葉のSPは「さくらさくら」の変奏曲で、琴とオーケストラによる和の響きは、オリンピックを意識した曲選びであることが察せられる。吉田陽菜は、オリンピックシーズンのフリー候補として2シーズン前の「鶴」をピックアップし、のびのびとしたスケーティングで充実ぶりをアピールした。アイスダンスと二刀流で新シーズンへ挑むことを発表した櫛田育良は、この日はシングルでの練習。ジュニア最後のシーズンを迎える島田は新SP、新フリーをともに練習し、ひときわシャープなジャンプで早くも準備万端という趣だ。
1人ひとりの曲かけ練習が終わるたびに、じっと見ていた濱田コーチがそばに近寄り、細かいアドバイスで改善点を指導していく。多数の日本代表たちを育み、世界へと送り出してきた名門アカデミーは、いよいよ4年に1度のオリンピックシーズンを控え、静かな熱気を高めている。
千葉百音、吉田陽菜、島田麻央ら選手たちのコメント
◎千葉百音
SPは「さくらさくら」で、ギヨーム・シゼロンさんの振付、フリーは「ロミオとジュリエット」で、ローリー・ニコルさんの振付です。SPは日本舞踊のような古の美がありつつ、コンテンポラリーのような独創的な動きもある独特なプログラム。フリーではいちばん自分が感情表現できそうで、クラシカルな音楽が自分の滑りに合っていると思うので、しっかり自分のよさが出せるような曲で気に入っています。今シーズンは、1つひとつの試合にしっかり気持ちを入れて、一球入魂、振付にまで魂を入れて、自分のいいところを存分に生かしていけるようにがんばります。去年、世界選手権で3位になったといえど、また同じスタートラインに立って頑張っていくという考えで、大切に悔いのないように準備していきたいです。
◎吉田陽菜
この1年ですべてを出しきれるようにという気持ちで、精いっぱい練習して、シーズンに入ったらどんどん気持ちを高めていきたい。SPはブノワ・リショーさん振付の「キル・ビル」で、集大成の年なので、楽しく、強い気持ちで、強く立ち向かう女性を演じられたら。フリーは2つプログラムを作ったのですが、2シーズン前に滑っていた「鶴」のプログラムを重点的に練習しています。「鶴」は、(「鶴」、昨季のフリー「苦悩する地球人からのSOS」、今年作った新しいプログラムの)3つを滑った時点で、滑りやすくて自分に合っているスタイルだなと思いました。今シーズンは勝負の年なので、自分が気持ちよく滑れるプログラムを選びたいなと思います。トリプルアクセルはショートとフリーに1本ずつ入れるのを目標にしています。オリンピックの出場権争いは大変な戦いになると思いますし、誰も予想できないと思うので、まずは自分に集中して悔いなく終わりたいです。
◎島田麻央
ショートは「Big Happy」と「Sing Sing Sing」を掛け合わせたプログラムで、ケイトリン・ウィーバーさん振付です。(フリーは先日発表:島田麻央、新フリーはYOSHIKIの「Miracle」)最近は4回転の(成功)確率がすごく上がってきたなと感じているのですが、4回転がよくなるとトリプルアクセルが少し確率が低くなってくるので、どのコースで跳んだらいちばん跳びやすいかっていうのをいまやっているところです。ジュニア最後のシーズンなので、どの試合も楽しむというのをいちばんにして、今シーズンも私らしく、逃げずに攻める演技をしたいです。シニアのみなさんはオリンピックシーズンということで、オフシーズンでも調子を落とさず、練習しているなという印象です。私はジュニアでオリンピックがかかっていないぶん、思いっきりいけると思うので、(フリーの曲名「ミラクル」にかけて)全日本でミラクルが起こればうれしいです。
◎櫛田育良
今シーズンからアイスダンスも挑戦していくので、両方ともしっかり100%の演技が試合でできるようにというのを目指しています。(シングルでの)ショートはキャシー・リードさん振付で、映画「マスク」から「Gee Baby, Ain’t I Good To You」という曲です。フリーはケイトリン・ウィーバーさん振付の「Variation Autour D’un Prélude」で、コンテンポラリーな雰囲気をイメージしています。アイスダンスとシングルの両立で練習量が増えるので、体力の部分がいちばんの課題かなと思っています。シングルでの目標はジュニアグランプリファイナルに出場することです。アイスダンスは、島田高志郎くんが「(櫛田選手と)やりたい」と言ってくださって、去年の夏にお試しでやってみたら合いそうだったので、今年1月に話し合いをして正式に決めました。将来的にはアイスダンスでオリンピックに出場していい成績をとりたいです。
◎中村俊介
今シーズンのショートの曲名は「Yesterday」で、振付師はミーシャ・ジーさんです。どこから見ても美しく見えるような、きれいな滑りをしたいなと思います。フリーは村元哉中先生振付の「ラストサムライ」で、映画を見てトム・クルーズの所作だったりを見ています。新シーズンはNHK杯に出場するのが目標で、3枠目を狙っています。それと、オリンピックシーズンでみんなすごく練習してくるなかでも、全日本で高順位に入れるようにしていきたいです。去年から大学の勉強のほうの成績もとらなきゃいけないということで、けっこう苦労したのですが、だいぶ慣れてきました。吉田陽菜選手は同じ大学で、成績もいいので、自分もがんばらなきゃと思います。
◎高橋星名
4回転サルコウと4回転フリップを習得したので、その4回転を武器に今シーズンも全力でがんばりたいです。新しいSPは「Dear Evan Hansen」という映画のなかから、「You Will Be Found」という曲を選んで、村元哉中さんに振付をしていただきました。フリーは映画「ミッション」からで、振付師はミーシャ・ジーさんです。いま4回転サルコウはフリーの中に入れて練習していて、4フリップも確率が上がってくれば、どちらも入れるつもりではあります。マリニンさんがこのリンクに練習に来たときに初めてその4回転を練習して、マリニンさんからは「トリプルを跳ぶような感覚のまま跳んだらいいんだよ」と教えてもらいました。先生からは次はルッツとループも練習していこうと言われています。
◎長岡柚奈&森口澄士
森口 昨シーズンやっと習得したトリプルツイストをいま必死に練習しているので、絶対にオリンピックの枠を取れるようにがんばりたいと思います。
長岡 SPは昨シーズンから継続で、フリーは新しいプログラムで「Tree of Life」という曲なんですけど、キャシー・リード先生に振付していただきました。
森口 SPはロケットの炎のような勢いを来季もさらに見せられたらと思いますし、フリーは柚奈ちゃんが葉、ぼくが幹で2人で木を表現します。(9月の)オリンピック予選会が厳しいこともメンバーを予想したりしてわかっていますが、ぼくたちがそこに臨めるだけのレベルに3年目で来られているということに、成長したなと思います。「オリンピックに絶対行けるための練習を積もう」と話しました。
長岡 世界選手権で並大抵の努力じゃオリンピックに出られないんだなと感じて、だからこそそれで出られたら、人生の経験としても成果としてもすごく大きなものになるとも思うので、「絶対に出たい」という強い気持ちです。
◎濱田美栄コーチ
(千葉選手は)昨シーズン、初めて世界選手権のメダルをとって自信になったと思います。滑りの1歩がスケールが伸びるようになって、いまもさらによくなっている。4回転ももうちょっと早く跳び上がれるようになって、腹筋とか上半身ももう少ししっかりしてくれば。もともと真面目な頑張り屋さんで礼儀正しく、それは京都に来たときからずっと変わっていません。(吉田選手は)スケーティングの質自体を上げていかなければいけないのと、アクセルの確率も上げるために、大学の勉強も忙しいのですが、練習の数を増やしていければ。(島田選手は)昨シーズン、勝負した演技ができたと思うんですけど、今シーズンは4回転と(トリプル)アクセルも絶対外さないという思いで、練習でも他の種類の4回転を始めて、5年後に備えたいと思っています。島田さんも千葉さんもしっかり練習をやるので、私がお尻を叩かなくてもいいタイプです。「良い加減」にしなさい、もういいんじゃない、と私が言っているくらいやってくれるので、あとはリラックスして、自分を信じるということを話してあげればいいかな、と。
オリンピックは、上手い人ではなく強い人が行く、それと「行きたい」といちばん思っている人が行くと思います。鈴木明子さんと話したときに「バンクーバー・オリンピック前のNHK杯で表彰台に乗ったときに初めて、オリンピックに行きたいって言っていいのかなと思いました」とおっしゃっていたのがすごく印象に残っていて、そのくらいの覚悟を持っていなさいと日ごろ言っています。いま各地にアカデミーが増えてきたことは、次世代の先生方が、私が始めたことをいいと思って、みんな続いてくれているので、すごくうれしく思います。櫛田&島田組のアイスダンスチーム結成に関しては、見た目も含めて海外で戦える両者なので勧めました。世界選手権で十分上位に入れるようになってほしいなと思います。