大人の男を演じる
いっぽう、フリーで演じるジェームズ・ボンドは大人の男。ポーズについた瞬間から、鋭い視線遣いで観客の心を射止める。4分間のなかにはっきりと緩急をつけ、クライマックスに向けて物語を盛り上げていく。こちらは演技力で魅了していくプログラムだ。最後は伸びやかなイナバウアーで色気と品格を薫らせ、再び強い視線を向けられるともう逃げられない。
「イナバウアーのところの音楽は、ジェームズ・ボンドの最期の曲。すべてのミッションをクリアした彼は、わけあって家族のために死を選ぶ――とても悲しいパートです。でも、ぼくのプログラムではイナバウアーのあと、もう一度ビリー・アイリッシュの『No time to die』という声を入れています。ここは、ぼくらが作った、ジェームズ・ボンドが生きている新しいストーリーです。彼は死なない」
「ワールド・フィギュアスケート」97号インタビューより
完成度の高い演技に加え、すらりとしたスタイル、ステージ映えする華やかなオーラは誰の目にも魅力的に映るだろう。それと同時に、その奥にあるしなやかなメンタリティもまた、若くして着実にキャリアを築いている一因になっている。10代の選手たちの活躍についてどう思うか尋ねたときには、照れくさそうにふっと笑いながら、「……ぼくもまだ若いと思うんです(笑)」と切り出した。
「21歳でもまだ若いし、まだまだ競技者として戦える時間はある。だからこそ、素晴らしいスケーターたちと一緒に戦えることは、ぼくにとってはいつだって誇らしいこと。試合の場で若い選手たちと一緒に練習したり、戦ったりしていると、自分のなかに大きなエネルギーと情熱を覚えるんです」
「ワールド・フィギュアスケート97号」インタビューより
2017年の世界ジュニア選手権で初めてインタビューした際に、印象的だった言葉がある。
「素晴らしいスケーターみんなから学んでいきたいから、“ロールモデルはこの人”と決めたくないなと思っています」
「ワールド・フィギュアスケート78号」インタビューより
他の誰とも比べない、でも他の誰からも刺激をもらう。自分だけの道を切り拓きながら、いくつもの魅力を持つ大人のスケーターへと移ろう現在のチャ・ジュンファン。その滑りを、ぜひさいたまスーパーアリーナで堪能してほしい。
ちなみに、冒頭で触れた歌謡祭でのパフォーマンスについて聞くと、にこやかに振り返ってくれた。
「氷の上じゃなくて、地上のステージでのパフォーマンスだったので、踊っているときも少し緊張しました。時間もなかったし、これまでやってきたこととはまるで違うし。だからけっこう緊張していたんですが、すごく楽しくて新しい経験にもなった。いちばんの思い出の1つです」
2023年四大陸選手権フリー後の共同インタビューより
チャ・ジュンファン選手のインタビューはこちらの号でお読みいただけます!
78号(2017年世界ジュニア選手権)
83号(2018年スケートカナダ)
88号(2020年四大陸選手権)
97号(2022年NHK杯)
アイスショーの世界7/フィギュアスケートシーズンガイド2022-2023