試合のための練習と練習のための試合
いつも同じように跳んで、同じように降りられるように鍛錬していたからこそ、違和感の原因を究明できた。自身のジャンプ理論について問われると、「専門的にはなるんですが」と前置きしたうえで、その感覚を言葉にしてくれた。
「どのジャンプにもその日跳ぶための跳び方、気をつける場所と、そうではなくて、どんな状態でも跳べる跳び方というのがあって。もちろん今日は全体的に左いっているから右に直すというのはその日しか通用しない。トウループに関しては、何度もやることによって自分で修正してその日跳んでいるだけで、どんなときも跳べるというジャンプを、(日ごとの調整で)跳べてしまうからこそ目指していなかったのかなと。4回転ループとかは跳べないから、跳ぶためにどうするかとやっていくなかで、試合でも跳べるジャンプになっていったんですけど、そこが昨日改めて気づいたすごく大きな収穫。1歩ずつ全部のジャンプを見つめていければなと思っています」
スケートカナダSP後の共同インタビューより
次戦のNHK杯は、スケート靴の影響でフリップジャンプの感覚がくるってしまったまま迎えた。調整を繰り返しても感覚が実際のジャンプに反映されず、悶々とする気持ちを隠せずにいた宇野を、ステファン・ランビルコーチは「完璧な状態で臨めることなんてほとんどない。だから完璧を求めすぎないように」と諭した。冷静さを取り戻した宇野は、SP本番で完成度高く4回転フリップを決め、表情にも明るさが戻った。宇野自身は本番に間に合わせたかたちとなったフリップの成功をよしとはしなかったが、その成功の裏には日々の練習で磨いてきた技術と感覚があったことは間違いない。
「ぼくはふわっとしたものはあまり好きじゃなくて。勝負強さとか、最後の調整とか。メンタルで跳ぶのもすごいことですけど、いいことではないと思っている。ぼくは練習してきたことだけを試合でこなしたい。でも、だからといって試合で失敗しにいくわけではないんですけど。だから、この成功がいいことではないとは思っていますが、それでも成功したという事実は、もう何年ですかね……ずっと長くフリップをやってきて、毎日今日まで練習してきたものがしっかり出せたのかなと思います」
NHK杯SP後の共同インタビューより
いつも同じように練習を行うのは難しい。練習通り本番を行うのはさらに難しい。宇野昌磨は、その難しさに挑みながら、試合のための練習と練習のための試合を繰り返して、さらなる高みへと走り続ける。そして今季の集大成が、さいたまの演技に結実する。
宇野昌磨選手のスケートカナダでの活躍は「ワールド・フィギュアスケート96号」、NHK杯は「ワールド・フィギュアスケート97号」でご紹介しています。96号は試合翌日のインタビューや、ジャパンオープンのレポートも掲載、97号は宇野選手の表紙が目印です!