いざ全日本へ——。国内最高峰の大会出場を目指すブロック大会から東西選手権への出場者が出そろうなか、前回大会のメダリストやGPシリーズ出場の有力選手たちも大一番へ向けてスタートを切った。
10月7日、2022年全日本選手権銀メダリストの島田高志郎はジャパンオープンで国内での初戦を迎えた。
フリーはステファン・ランビエル振付の「死の舞踏」。4サルコウを降り、3アクセルは2本ともコンビネーションにして成功した。4トウこそ不発に終わったが、シーズン序盤からジャンプを丁寧にそろえていき164.26点。イリア・マリニン、友野一希に次ぐ3番手に入り、フリーのみながら、ケヴィン・エイモズ、ジェイソン・ブラウンを抑えるかたちで世界選手権のトップ6に割って入った。
フリー「死の舞踏」は、いままでの自分とは違ったテイストで、ダークな感情表現、クラシックでありつつも奇抜な動きをテーマにステファンコーチに振付けていただいたので、その世界観を表現することが目標。世界観全部を見ていただきたいですが、とくにステップシークエンスやコレオシークエンスにプログラムのポイントとなる表現が詰め込まれているので注目していただきたいなと思います。ピアノだけの編曲はすごく特別な雰囲気があったので、自分のスケートで表現したいと思いました
10月6日ジャパンオープン前日練習後の囲み取材より
もともとノービス時代から踊り心のあるスケーターとして注目されてきた島田。存在感をより大きくしたのは、やはりアイスショーシーンからだった。
2022年春、スターズ・オン・アイスに初めてキャストとして出演。北京オリンピック金メダリストのネイサン・チェンや同年の世界選手権で銅メダルを獲得したヴィンセント・ジョウらと共演したグループナンバーでも、心地よく音をひろっていく音感のよさや、瑞々しい爽やかな魅力はひときわ輝いた。
その魅力は、同アイスショーでグループナンバーを手掛けたジェフリー・バトルと初タッグを組んだ昨季のSP「シング・シング・シング」によって競技シーンでも発揮された。躍進の原動力の1つとなった小粋なジャズナンバーは、コーチのランビエルの提言により今季も継続して使用される。
さらに、今夏は「ワンピース・オン・アイス」のサンジ役でも大きな話題を呼んだ。主人公ルフィとともに麦わらの一味として航海するコックで、戦闘時は足技使い。普段の佇まいはクールだが、女性の前ではメロメロになる茶目っ気も見せるという役どころ。音楽性やテーマの表出とはまた異なる演技力を身につけ、抜群のスタイルも加勢して見事に演じ切り、スケートファンのみならず「ワンピース」ファンも虜にした。
>> 宇野昌磨ら出演「ワンピース・オン・アイス」、いざ氷上の大航海へ! | WFS-Web ワールド・フィギュアスケートWeb
実力、魅力、実績に話題性……幼いころからピースを磨き、コツコツ組み上げてきた島田が、新シーズンの初めに披露した「死の舞踏」は、これまでの爽やかな魅力とも、サンジ役で見せたクールな表情とも違った、ダークでつかみどころのない島田高志郎だった。
今シーズンの目標はグランプリシリーズ、全日本選手権の表彰台を結果として目指してはいますが、フリープログラムが自分への挑戦。今日の演技だとお客さんの心を感動で震わすところまではまったく及んでいない。自分にしか出せない特別な世界観を大事に、さらにプログラムを滑りこんでいって、いつかは心が震えるような演技ができるように練習していきたいです
10月7日ジャパンオープン日本チーム優勝会見より
このあと、島田はGPシリーズのフランス大会、フィンランド大会に臨む。さあ、今季はどこでどんな魅力の彼に出会えるのだろうか。
ちなみに、カーニバル・オン・アイスでEXILE TAKAHIRO、ハラミちゃんと披露した「もっと強く」は、コーチングチームのサポートを得ながら島田自らが振付を担当したという。「まさかこんなかたちで自分のコレオが実現するなんて」と照れくさそうに微笑んだ島田。長尺の音楽と歌詞にしっかりと呼応する振付で、切なさや儚さの先に強さを見出す出色のコラボレーションを完成させてみせ、多彩な才能の「さらにその先」をちらりと垣間見せた。
見るたびに色を変え、輝きを増していく。どこまでも楽しみが尽きないスケーターだ。