2026年3月27日
プラハ世界選手権2026 男子ショートプログラム

世界選手権2026 イリア・マリニンと三浦佳生“苦境からの立ち上がり方”

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プラハで開催中の世界選手権は3月26日、男子SPが行われました。トップスリーはイリア・マリニン(アメリカ)、アダム・シャオイムファ(フランス)、アレクサンドル・セレフコ(エストニア)。日本の鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大学)は氷の溝にエッジが引っかかってトリプルアクセルが跳べない不運があり、それでも最初2本の質の高いジャンプと強みである演技構成点で踏みとどまって6位、練習では不調ながらも「ぎりぎりで」本番に合わせた佐藤駿(エームサービス/明治大学)が4位で、それぞれ最終グループでフリーに臨みます。三浦佳生(オリエンタルバイオ/明治大学)はジャンプが3本とも不発となり、SP25位でフリー進出を逃す波瀾の試合となりました。

オリンピックで傷を負ったイリア・マリニンと、今回の世界選手権で傷を負った三浦佳生、2人の試合から「苦境からの立ち上がり方」を読み解きます。

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イリア・マリニン:アスリートであることと、楽しむことのあいだ

4年ごとにめぐってくるオリンピック直後の世界選手権は、特別な雰囲気に包まれた舞台だ。もちろん各国のトップ選手が集うのだが、オリンピックの金メダリストは大会をスキップすることが多く、いっぽうでオリンピックでは満足のいく滑りができなかった選手が夢舞台で逃してしまった何かを探しに、あるいは欠場で空いたスポットを肩代わりする形で補欠から出場を叶えた選手が希望に燃えながら、世界選手権へやってくる。

今回、オリンピック金メダリストは男子、女子、ペアの3カテゴリーで不参加。そのなかで、今大会にやってきた選手たちの筆頭注目株は、やはりイリア・マリニンだっただろう。オリンピックのフリーでまさかの大失速を喫し、8位という誰も想像だにしなかった順位に沈んだイリア。演技直後には絶望をその表情に浮かべながらも、勝者を称え、最後までスポーツマンらしいフェアネスを保ち続けた態度は称賛を呼んだ。

だがもちろん、イリアのつらさは余人には測りかねるほど、大きなものだった。世界選手権の男子SPでは、4フリップ、3アクセル、4ルッツ+3トウに成功し、自己ベストとなる111.29点の高得点で首位発進を決めたイリアは、SP後の会見で、こんなふうに語った。

「オリンピックで起きたことから“戻ってくる”のは本当に大変だった。スポーツではどんなことでも起こりうるから、どんな可能性だって存在していた。小さなことでも結果が大きく変わるなんて日常茶飯事で、だからオリンピックのあとの数日間は本当に、本当につらかったよ。毎日ずーっと、24時間、あの日のことを考え続けた。いくつも「ああすればよかった、そうすればこうなったはずだ」ということが思い浮かんで、でも最終的には、ぼくの手元にある結果というのはあのときに起きてしまったことで……そのことに整理をつけて、前に進むしかないんだ。もしも違うユニバースで、ぼくがオリンピックの金メダルを獲った世界線だったら、ぼくは世界選手権に来ないことにしたかもしれない。でも現実では、ぼくはここにいる。だからいまこの瞬間を大事にして、楽しもうと思ったんだ」

オリンピック後にはメンタルヘルスの問題にも言及していたイリア。日頃、いつも前向きで物事に果敢に挑んでいく彼が、オリンピック後にはそれとは逆の考え方にも囚われながらも、自分に言い聞かせ、懸命に前を向こうとした軌跡が、彼の言葉のなかに表れていた。

「物事にはプラスとマイナスがあるから、たいていの場合、ぼくはポジティブな面を探すようにしている。でも同時に、“起きたことは変えられない”っていうことも事実なんだ。もう終わったことで、それを変えるためにできることなんてない。過去に戻るタイムマシンはないんだ。もしかしたら数年後にはできるかもしれないけどね? でもいまは、終わってしまったことを見据えて、そこから切り替えて進んでいくしかない。何事も起こりうるんだと理解して、そこから学んで、将来に活かすために」

そしてイリアは、こう続けた。周囲の誰からも常勝を期待され、自分自身も高い期待値を自分にかけていた彼が、今シーズンの苦い経験を経て掴み取った本質的なメッセージ。

「アスリートであることはぼくらの務めだけど、同時に、人間らしくあることも大事な務めだと思うんだ。このスポーツを愛することなしでは、あっという間に燃え尽きてしまう。能力の最大限を出しきる演技をしたいけど、同時に何もプレッシャーを感じずにただ楽しむこともやりたいし、そのバランスを見つけるのはとても難しい。シーズンが終わりかけた今、アスリートであることと、楽しむことの真ん中がやっと見えてきたような気がする」

SPで自己ベストを更新し、誰よりも大きな歓声とスタンディングオベーションを送られたイリア。28日のフリーでどんな演技を見せてくれるか楽しみだ。

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三浦佳生:冷静さと、責任感と

いっぽう、三浦佳生。「イリアとは仲がいいので、オリンピックの彼は見ていてショックな気持ちが大きかった。今回元気そうだったので、安心しました」と仲のよいイリアを思いやった三浦だが、彼自身もオリンピックでは靴に問題が出て、ぎりぎりの戦いになった。それでもフリーで大きく巻き返して順位を上げ、三浦佳生ここにあり、という爪痕を残したオリンピックを終えて、三浦は疲れを感じながらも世界選手権にやってきた。

SPは30番目の滑走。冒頭の4サルコウで激しく転倒したのを皮切りに、ジャンプをはじめ要素がまとまらず、71.05点。得点が出ても、フリーへの通過を意味する「Q」マークがつかない。三浦のあとは有力選手ばかりだから、その時点でフリー進出を逃すことがほぼ決まってしまった。取材エリアに来た彼は、蒼白な顔色でまず来シーズンの世界選手権の日本の出場枠を心配した。オリンピックの出場枠の場合は、3選手が全員フリーに進出しなければ3枠獲得の可能性がなくなるが、世界選手権の場合は、上位2選手の順位の合計が13以内であれば、3枠を獲ることができる。それを理解して、少し安心したようだった。

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「なんでこうなったのかわからない。普段からしていない失敗なので、普段とはまた違うところに原因があるんじゃないのかなというのは、正直感じています。いい形で集中できる緊張感だったし、試合の運び方も悪くなかった。朝の練習もいい形で。それでこうなっているのは、本当に自分としてはお手上げ状態で、オリンピックもそうだったけど、大きい試合に運んでくださっているのに結果を出せない、無様な姿ばっかり見せて、本当に各方面に申し訳ない気持ちでいっぱいです」

オリンピックのSPはまだ靴の問題があったとはいえ、2大会続けて、自身でも理由を測りかねている本番でのミス。しかし、少し前の三浦とは、明確に変化したことがある。自分への怒りやいらだちに気をとられることなく現状を見つめ、何が弱みなのかを把握しようと努める冷静さ、そして日本代表としての強い責任感だ。

「派遣してもらっているのに、結果が出せなきゃ話にならない。別に結果だけを求めてきているわけじゃないですけど、大前提として結果を残す見込みがあるから派遣してもらっているわけで。日本ってすごくレベルが高いし、その中で1枠をこうして使ってしまうと、自分としては『悔しい』で終わりますけど、『結局こうだよね』と言われてしまうのは自分自身も耳にする機会があるので、そういったときに申し訳ないという気持ちになってしまう。この経験をさせてもらっているので、苦い経験をのちのち笑って振り返れるくらい、強くなれたらいいと思います」

大会の前日取材で話していたことが、三浦にとってはからずも今後の指針になるはずだ。今回の大会で“大底”を打ったからこそ、今後の彼の競技生活のなかで強みへと変化していくことを期待したい。

「自分は4年後までのストーリーだと思っている。自分の競技人生のなかで、4年後はいちばんのピークを迎えるころだと思いますし、そこで脂の乗った状態にするために、4年間コツコツやっていきたいなと思います」

ともに才能に恵まれ、国際大会で存在感を発揮し続けてきたイリア・マリニンと三浦佳生。明るく人好きのする性格を共通点に友情を結ぶ2人は、今シーズンのオリンピックと世界選手権を通して、それぞれに重い学びとそこからの気づきを得て、また未来へと踏み出す。次の4年間を主役として走り抜けるのは、間違いなく彼らとなるはずだ。

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