「羽生結弦 notte stellata2024」が3月8~10日、宮城のセキスイハイムスーパーアリーナで開催されました。2011年3月11日に発生した東日本大震災。地元・仙台で震災を経験した羽生結弦さんが、仲間のスケーターたちとともに被災地へ希望を届けるべく、昨年初開催されたアイスショー。今年は、昨年に続いて、ジェイソン・ブラウンさん、シェイリーン・ボーン・トゥロックさん、宮原知子さん、鈴木明子さん、田中刑事さん、無良崇人さん、本郷理華さん、フラフープを操るビオレッタ・アファナシバさんが出演し、新たに羽生さんの盟友で、平昌オリンピック銅メダリストのハビエル・フェルナンデスさんが参加しました。
もっと希望を届けたい
あの日を境につらい思いをされた方、つらい経験のなかから生き抜いている方、そしてあの日から生まれて今日まで生き抜いている方、本当に様々な方がいると思います。どんな方にとっても、もちろん3.11に直接被害にあわれなかったとしても応援し続けてくれている方たちにも、希望や祈りが届くように、ぼくたちはこのショーを通して滑っていけたらいいのかなということを考えています
初日公演後の囲み取材より(以下同)
観客の手につけられた無数のライトがきらめいた。客席に浮かんだ満天の星――「notte stellata」とともにショーは始まった。静かになった夜空のなかに、羽生結弦が現れた。ひと蹴り、ひと蹴りから思いを放つような滑りに、時折ふわりと微笑みが浮かぶ、優しく温かいパフォーマンスだった。
今回、羽生は2つの新作を披露した。その1つが、女優の大地真央とのコラボレーション「カルミナ・ブラーナ」だ。白と黒の女神を演じるステージ上の大地真央に、ときに翻弄されるように、ときに抗うように、あるいは背中を押されるように熱のこもった演技を見せる羽生。共演した大地は「(ステージと氷上で)位置的に距離があるんですけれども、息が合いました。すごくコラボ感を感じることができました」と語り、ショーの主題について「(震災体験は)絶対に忘れてはいけないことだと思います。羽生さんが取り組んでいらっしゃることは本当に素晴らしいこと。そこに参加させていただけて、微力ですけれども、少しでもお役に立てていればうれしく思います」と賛同の思いを言葉にした。
「カルミナ・ブラーナ」に関しては、自分が出てきたところはまだ世界を知らないすごく無垢な少年。幸せを感じながら生きている。その少年が成長していくことによって運命の女神が現れて、運命に囚われていく。最終的には、その運命もすべて受け入れて、自分がこの運命そのものと対峙しながら、でも自分の意志で進んでいくんだ――というストーリーがあります。ぼくはこのストーリーのなかに、人間の力ではどうしようもない災害や、苦しみを感じたとしても、そこに抗いながらもそれを受け入れて進んでいくんだという強いメッセージみたいなものをこめたいなと思いながら滑っています」
いっぽう、ショーのトリを飾った「Danny Boy」は「希望」をコンセプトにしたといい、心地よいピアノのメロディーに繊細に寄り添う、どこか晴れやかなナンバーに仕上がっていた。
過去にうれしかったことだったり、戻りたい過去だったり、震災前だったり、そういったものに対して手を伸ばす、希望に手を伸ばすところがあったり。逆に未来に対して手を伸ばして、未来の希望に向かって祈りを捧げるみたいなシーンがあったり。最初に見ているシーンが過去、反対側が未来というようなイメージでデイヴィッド・ウィルソンさんに振付をしていただきました。
共演スケーターたちも、希望をテーマに選んだプログラムや、会場を明るく盛り上げるダンスコラボを披露、大地真央もダンサーを引き連れたソロナンバーで圧倒的な存在感を放ち、パフォーマンスを通してそれぞれの思いを伝えた。
最後は、全員で手を取り合い、思いを1つにフィナーレを迎える。優しく、力強く、祈りと希望を届ける2時間。羽生の提案で、出演スケーター全員がそろって「ありがとうございました!」と、マイクを通さない生の声で会場に集まった6,100人の観客にありったけの感謝を伝え、2年目最初の幕は下りた。
前回は初めて3.11という日にみなさんの前で演技をさせていただくという経験をして。正直、やっぱり映像を見たり、記憶を思い返したりするとつらくなってしまうことはある。それに囚われながら滑っていたのが前回で、そのなかでみなさんから希望とか、勇気とか、元気とか、いろんなものをいただけたショーでした。そういう意味で今回は、ぼくがあのときもらったものをもっともっと返したいなって、もっと希望を届けたいなと思って、「Danny BOY」もそうですし、「カルミナ」も、たしかに強さがある曲調ではあるんですけど、そのなかに立ち向かう者みたいなものを感じていただけたらなと思って滑っているので、そういった意味では去年と本当に心意気がまったく違った、コンセプト自体がまったく変わったショーになったのかなという気持ちではいます。