Yuzuru Hanyu ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOURが11月4日、さいたまスーパーアリーナで開幕した。「GIFT」でスケーター初のドーム公演を実現し、「アイスストーリー」という新たな表現を開拓した羽生結弦が、アイスストーリー第2弾として、自身も親しんできたゲームの世界にインスピレーションを得て描き出した物語だ。製作総指揮は羽生結弦、演出は前回に続いてMIKIKOが担当した。
圧倒的なストーリーテリング
会場では正面に設置されたスクリーンにゲームの画面が表示されており、公演開始とともに「PRESS START」の文字。流れ出すのはゲームミュージックだ。これは作品の世界観に分け入っていく合図。物語が始まると、スクリーンではゲームのコマンド選択を模して、短く示唆に富んだメッセージと問いかけが繰り返される。命とは、選択をするということとは。なぜ生きるのか、なぜ戦うのか。見る側としては、羽生自身の競技人生ともオーバーラップさせずにはいられない問いと感情の表出が物語を牽引していく。
開幕のパフォーマンスとなった「いつか終わる夢-original-」から始まり、般若心経からスタートする楽曲で赤いレーザーと光柱に囲まれた空間を滑る「鶏と蛇と豚」では氷上からリンク外の丸いステージに歩を進め、陸上でのダンスでも熱狂を誘った。命の重みを選択させるシーンに続く「HOPE & LEGACY」、障害物が落ちてくるダンジョンをくぐり抜けた勇者が飛び出してくるような演出とともに始まった「MEGALOVANIA」。無音のなかブレードを何度も氷に叩きつけ、やがて音楽が始まると、スピンを主体にした表現で息をつかせぬ迫力に満ちたスケートが繰り広げられた。
第1部の最後、時計が刻々とカウントダウンを告げ、戦いに向かう者の張りつめた緊張感を伝えるなか、6分間練習に臨む羽生。そして、ゲーム「FINAL FANTASY Ⅸ」から選曲し、競技プログラムに近い全力の構成で展開された新作「破滅への使者」は、4回転サルコウ、トリプルアクセル+3回転サルコウ+3回転サルコウなどのジャンプを着氷。力を出し尽くして戦いに勝利する――と、思えたところに、「セーブデータが壊れています」という無情なメッセージが映し出される。意表を突く演出であると同時に、ループする物語の先に描かれるものは? という期待を押し上げて、作品世界を重層的にするクリエイター羽生結弦のスケールをも感じさせる展開だ。
休憩をはさんだ第2部は、再び「いつか終わる夢」、しかし今度は「いつか終わる夢 RE:」と題されたリミックスバージョン。全体を通してダークな緊迫感に満ちていた第1部とは異なり、どこか柔らかな表情を帯びた羽生が、もう一度生き直すさまを心に沁みいるようなスケーティングで描いていく。水底に沈んでいくイメージに続くのは、「天と地のレクイエム」。無数の灯篭が宙に浮かび、鎮魂のために作られたプログラムが作品世界に新たな光をともした。
物語は次第に、命のその先にあるものへと目を向けていく。光る星のもと、前を見据えて歩いていく羽生の映像。大切なものをいとおしむような愛情深さを湛えた「あの夏へ」のあと、最後を飾ったのは、祈りと希望をもって進むというポジティブなメッセージを全身で表現した「春よ、来い」だ。ゲームをプレイするという意味だった「RE_PLAY」は、生き直された2度目の生を経て、祈ることを意味する「RE_PRAY」に変わる。繰り返される戦い、生きることへの問いが、未来への希望につながっていくという前向きで力強いテーマを投げかけて、作品は幕を閉じた。