「ジャンプのイメージトレーニング」とは
―― メンタルのトレーニングと、イメージのトレーニング。通常の練習とはまた別のトレーニングに取り組まれたというのは非常に興味深いお話なのですが、まずそのジャンプのイメージトレーニングというのは、どんなステップでされているのでしょうか。
「それぞれのジャンプについて、1、2、3、4、5というように、どういうタイミングでジャンプを跳び上がるのかが自分のなかで決まっています。私の場合、フリップだったら4、ルッツだったら6、ループだったら5のタイミング。毎回同じように跳ぶのですが、タイミングだけではだめで、たとえば手の軌道がどこから始まって、どこを通って、どこに行き着くのかを、目をつぶっていても“ここからこういう風に体が動く”ということが全部わかるのがベストな状態。そこへのステップとしては、最初は目を閉じるといつもどうやって跳んでいるかわからなくなってしまっていたのが、練習のときに鮮明に感じながら跳ぶことによって、“いま失敗したのはここを通らなかったから”“いまのは綺麗に跳べて気持ちがよかった、これを覚えて同じようにやろう”とトレーニングしていきました。どこをどう意識したらいいジャンプが跳べる確率が高いのかを1つに絞っていった。試合のときに考えすぎてしまうクセがあるから、“ここ1つさえ意識していれば大丈夫”という抜け先みたいなものを決めることで、イメージ上にある通り勝手に動いてくれるという状態に、だいぶ近づいてきた段階にいると思います」
―― 数学的な頭のよさという感じがします。
「いや、数学はできないです。(笑)もともと、岡島功治先生はすごく論理的なコーチで、小さいときから、失敗すると“右肩がこうなっているよ”とか、“ここを通って、左足をもうちょっと滑らせて”とか、本当に細かいところまで注意していただいてきたこともあると思います。そこにプラスして、いままでの私は試合というのは一か八かだったんです。それならば、練習でイメージした通りの体の動かし方をする練習をしなくちゃいけないと言われて、いままでは頭では理解していても実行できていなかったことを突き詰めないとだめなんだと自分でも気がついて、このシーズンオフに取り組みました」
―― 変革のシーズンなんですね。
「そうですね。今シーズンは本当に、外からはわからないけれど、自分のなかではすごく大きい変革をしているというイメージです。同じように跳んでいて、べつに明らかに跳び方やジャンプの軌道が変わったわけではないのですが、自分としては同じジャンプの成功でも、いままでとは全然違う成功だと感じています」
―― 昨シーズンはよかったことも悔しかったこともあったと思いますが、その学びが今季の改革に役に立っている?
「変わろうと思ったきっかけが、やはり昨季の全日本選手権でした。グランプリシリーズで、自分としてはいい結果が残せていたにも関わらず、いざというときに考えすぎるクセが出てしまった。どうしたらいいんだろうと思ったときに、練習での調子には波がないのに、試合で波があるのは、試合に対する一か八かという感覚がよくないんだと気づけたということはあると思います。なかには練習では失敗していても、本番ではカチッと決めていくタイプの選手もいますが、私は練習でコツコツ積み上げてきたものを、そのまま試合で出せるかどうかというタイプ。その自分のタイプに合わせたやり方を見つけたという気がします」