アイスダンスで世界選手権3連覇を果たし、長くトップシーンで活躍するマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組(アメリカ)。チョック選手のもう1つの顔は、才能ある衣装デザイナーとしての側面です。手掛けたコスチュームは3度もISUアワードの最優秀衣装賞に輝き、その独創性あふれる衣装は毎シーズン注目の的となっています。ラブコールを受け、他の選手の衣装を手掛けることも。今回は本誌の連載「コスチューム・ワールド」の番外編として、チョック選手と公私にわたるパートナーのエヴァン・ベイツ選手から聞いた、衣装製作のプロセスやこれまで着用してきた衣装への思いなどをお届けします。(2024年NHK杯で収録)
マディのこだわりが、衣装に「本物らしさ」を吹き込んでくれた
―― 今シーズンの衣装も素敵です。FD「Take Five」は、どんなコンセプトで製作されたのでしょうか。
チョック このシーズンのFDは昔ながらのアメリカンスタイルを参考にしていて、希望と復活のイメージや、クライスラー・ビルディングとエンパイア・ステイト・ビルディングがそびえ立つニューヨークの街並みといったイメージがまずありました。ニューヨークは時代の先端をいく芸術がたくさんある街です。この曲が演劇になったらどんな感じになるだろうと想像しながら衣装デザインをスケッチしました。暗い雨の夜にジャズバーにいるようなシーンやフィルム・ノワールもインスピレーション源になりましたし、この衣装はそういったものたちから生まれたと言えます。
ベイツ マディは幸運の女神に扮してるのですが、ぼくはプログラムの冒頭では憂鬱でツイてなくて、落ち込んでいる状態という設定なんです。はじめはマディのことを見ていないけれど、彼女に触れられることで幸運に恵まれるようになっていって、2人の動きもプログラムが進むにつれて戯れるようになっていく。音楽はジャズのなかでもユニークな曲を使っているのですが、この音楽のユニークさがこういうストーリーを表現できた大きな理由だと思いますね。
チョック 幸運というのは、自分の人生にやってきては去ってもいくものでもありますが、自分で幸運を生み出すこともできる。自分の直感を信じて流れに身を任せればめぐり合うのと同じくらい、作り出せるものでもある。そんなイメージで滑っていますね。
ベイツ このプログラムの衣装の場合、ヴィンテージショップからボタンを調達したり、できる限り当時のものに近い素材を使ったりと、マディがこだわってくれたちょっとしたところが、衣装に「本物らしさ」を吹き込んでくれたんだと思います。マディは本当にデザインへの意欲にあふれているし、デザインの案を数多く作ることが、最終的に出来上がる衣装にいい影響を与えていると思います。彼女は確か5種類のデザインを作って見せてくれて、その後に自分たちが何を表現したいか、どんなデザインがベストかを話し合いました。彼女がとてもたくさんのアイディアを持っているから、ぼくはただ、選択肢を絞ることしかしていません。(笑)そしてデザインを絞り込んだあとに、最終的にどんなデザインにするかチームで話し合う場を設けるんです。ぼくはただ、彼女のクリエイティビティあふれるエネルギーが最大限発揮できるように配慮して、完成形に結びつける手助けをしているだけなんだ。
チョック 私がすべてを決められるとしたら、毎試合違うドレスで出場することになってしまいますからね。(笑)
ベイツ リズムダンスは50年代、60年代、70年代を旅するというもので、ぼくたちは3分間のなかでダンスの進化というものを表現したいと思っています。すごくやりがいがありますよ。このプログラムに関しては、マディは赤と青を基調としたクラシカルなアメリカンルックにしようと最初から決めていました。ぼくのスーツはとても機能的で、50年代のものに近い形をしていますが、そこに60年代と70年代の要素もマディがデザインに組み入れてくれました。タイも彼女が見つけてくれたもので、ひらりとしていて色がたくさん入っているすごくおしゃれなヴィンテージのタイなんです。衣装の他の細かい部分も、この3つの年代をつないでくれています。