5月31日、6月1日に幕張イベントホールで開催される「ファンタジー・オン・アイス2025」に出演する城田優さん。2024年公演にも出演し、優しくたくましい歌声とスケーターたちのパフォーマンスが生み出す幻想的なコラボレーションが大きな話題になりました。2年目となる今回は、スペシャルプログラムの演出家としても参加。自身が主演するミュージカル「ダンス・オブ・ヴァンパイア」の世界を、スケーターたちとともに氷上に描き出します。さらに、昨年リリースした「夢の種~I’ll be by your side」で田中刑事さんと共演することも発表され、アーティストとしても、演出家としても大活躍の城田さんに、お話を伺いました。
「アラジン」は新しい可能性を見出せたナンバー
―― ファンタジー・オン・アイス(FaOI)へは昨年に続いて2年連続でのご出演となります。昨年、アイスリンクでスケーターたちと一緒にパフォーマンスをしてみていかがでしたか。
「めちゃくちゃ楽しかったです。スケーターの生パフォーマンスに合わせて歌唱するのはなかなかない機会ですので、新鮮でしたし、手に汗握る緊張感もありました。実際にコラボするスケーターの方のジャンプや技の瞬間はぼくのほうが力が入ってしまったり、うまくいった際には笑みがこぼれたりと、毎回とにかく楽しかったです。失敗が許されないというのも、ぼくが普段立っているミュージカルの舞台と通じるものがあると感じました。もちろん人間なので失敗もしますし、うまくいかない日もありますが、それがダメだというのではなく、自分の限界を常に更新して、120%で演目に臨んでいく姿勢やスタイルがミュージカルにとても似ている。ぼくらも簡単に歌を歌い、お芝居をしているわけではなくて、しっかりと準備をして、苦手や難しさを乗り越えて舞台に立っています。それこそ日によっては失敗することもありますし。それでも、ぼくからするとやはりスケートのほうが1億倍くらい難しそうに見えます。そこへ挑むみなさんのパフォーマンスに力をもらいながら、一緒に歌っていて、テンションが上がっていましたね」
―― 青木祐奈選手とコラボレーションした「アラジン」は、可動ステージを使った演出も大きな話題になりました。
「あのステージングは、残念ながらぼくの演出ではないんですが(笑)、動く舞台が魔法のじゅうたんに見える大好きな演出ですし、自分のなかでも『アラジン』はハイライトの1つです。新しい可能性を見出せたナンバーだと思いますね。ジャスミン役の青木祐奈さんの素晴らしいパフォーマンスに、ぼくと安田レイさんの歌唱が少しでも世界観を作り、彩れていればいいな、花を添えられていればと思います。もちろん(山本)草太さんとの『僕こそ音楽』、ハビ(ハビエル・フェルナンデス)との『Isabel』もとてもとても大好きなコラボでした」
―― 城田さん自身も演技や音楽など表現方法を多くお持ちでいらっしゃいますが、実際に共演してみて、フィギュアスケートという表現方法のおもしろさは、どんなところだと感じましたか。
「自分の身体や感情を使って表現するところは、お芝居と相違ないんですが、氷の上だということがまず圧倒的な違いです。これを語り始めたらキリがないですが、ぼくらが見ているあの演技に行きつくまでの、みなさんの果てしない努力、苦労に思いを馳せながら見るとより感慨深いですよね。じつは、昨年のFaOIに出演したのをきっかけに、スケート靴を履いてみたくなって、リンクに行ってみたんですが、練習場で子どもたちが何度も転びながらジャンプの練習をしているところを見てきて、誰もが突然滑れるようになるわけではないんだなとわかりました。エアリアルやカップル競技の方たちも、完璧に見える方たちもみんな、きっと何度も転んで、怪我をして、くじけて、“それでも”って気持ちでずっと続けてこられた結果がいまにつながっているんだと感じます」
―― その点も、お芝居や音楽のお仕事と共通するのでは?
「ぼくらも同じようにオーディションで『だめだ、下手くそ』と言われながら、練習に練習を重ねて徐々にうまくなっていきますし、デビューがゴールではなく、そこにスタートがあって、そこからさらに高みを目指していくものです。人それぞれに努力のスピードや内容は違いますが、1日1日の積み重ねがみなさんのパフォーマンスを作っていると想像すると、いっそう胸打たれますよね」
―― そうしたビハインドストーリーも含めて、パフォーマンスの感動になるわけですね。
「そうですね。もちろんその背景を想像させようとか、考えてほしいということでは一切ないんです。ぼくらが、ミュージカルだったら舞台上に、スケートだったら氷上に持っていく想いは、『これだけ練習したんだ!』というものではなく、そこからスタートする物語なので。あくまでぼくからすると、同じ演者として背景を“感じてしまう”というだけで。観に来てくださる方たちには必ずしもそこを感じとっていただく必要はなくて、どちらかというとそれが感じられないほうがパフォーマンスとしてはいいのだと思います。緊張しながら観るよりも、リラックスして演技の世界に浸ってもらえるほうがうれしいと思います。ぼくら役者も、難しいナンバーや、殺陣のような難しい技をやらなければいけない瞬間は、緊張と緩和のバランスがうまくとれたときに、人の心を動かすパフォーマンスができると思っています。メリハリやわびさび、そういったニュアンスが生まれて、お芝居やスケートのパフォーマンスが観ている人の胸を打つ。決して、いかに難しいことをやっているか、努力しているかを見せたいというわけではないんです。ただ、ときどきふと『これはすごいことをやっているな』と感じていただけるのは、パフォーマー側もありがたいと思うんですけどね」
よりファンタジーに包まれた妖艶な「ダンス・オブ・ヴァンパイア」を
―― 今回、ご自身も出演するミュージカル「ダンス・オブ・ヴァンパイア」を氷上のプログラムとして演出されるとのことですが、数ある演目のなかからどうして「ダンス・オブ・ヴァンパイア」を選ばれたのでしょうか。
「ファンタジー・オン・アイスというショーにおいてはファンタジックな要素が必要だと考えたときに、“ヴァンパイア”がファンタジーな存在――世の中にはいるかもしれませんが、いまのところどうやら発見はされていないよう――であるということと、作品の舞台がとても寒い雪国で、ヴァンパイア自体も死に近いと言いますか、熱を持たない、冷たいイメージがあって、ぼくの頭のなかの『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のイメージと、フィギュアスケート、FaOIの舞台が非常にマッチしました」
―― アイスリンクという非現実的な空間もまた作品世界とマッチするんですね。ステージとしてのアイスリンクは、どんな可能性があると思われますか。
「ぼくが経験してきた舞台とはすべてが違うので比較することも難しいんですけど、演劇にも円形や360度見える舞台もありますし、逆にスケートリンクに舞台を出すというのも高橋大輔さんがされていましたし、いろんな可能性が感じられます。ミュージカルや演劇とフィギュアスケートとのマリアージュにより、素敵な色に変わったり、スパイスが加わったりして、魅力が広がっていくのではないかと思います。スケートリンクの使い方は、演出家としてはぼくもまったくの未経験ですから、振付の先生や、すでにアイスショーの演出をされている金谷かほりさんといっしょに作っていけたらと、とても楽しみにしています」
―― 「ダンス・オブ・ヴァンパイア」の世界観を氷上に登場させるにあたって、現時点ではどのように構想を思い描いていらっしゃいますか。
「去年の時点で、これは『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の世界がめちゃくちゃハマるだろうと思いながら参加していたので、世界観の親和性とマッチングの可能性はとても感じていました。材料はそろっていて、それをぼくが上手に調理できるかだと思うので、みなさんのお力をいただきつつ、効果を多用しながら、ミュージカルでは表現できないような、よりファンタジーに包まれた妖艶な『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を表現できると思っています。スケーターの方々がどのような表現をしてくださるのかも非常に楽しみで、頭のなかの想像と実際にそれが具現化して見える瞬間とでは、全然違う喜びと発見があります。実際に構成が出来上がって、自分が歌いながらみなさんが舞われている姿を見て、きっと確信に変わると思います」
―― そういったアイディアがあって、今年もぜひ出演したいと思われたのでしょうか。
「ぼくのほうから『やらせてください!』と、そんなおこがましいことは言えないです。ただ、去年出演させていただいたなかで発見したことや、これは面白くなるんじゃないかと感じた部分をプロデューサーの方たちとお話しさせていただく機会があって、そのなかで『ぜひいっしょにやりませんか』とお誘いをいただいて、2年連続で出演させていただくことになりました。ぼくのほうからお話ししたとすれば、たとえば『ダンス・オブ・ヴァンパイア』は面白いと思いますよということだけであって、『演出させてください!』と持ち込んだわけでは一切ございません!(笑)ゲストシンガーの方はほかにもいらっしゃいますから、ぼくに焦点を当てていただくことが多いのも恐縮です……。とにかく新しい『ダンス・オブ・ヴァンパイア』にご期待ください!」
―― 新しいコラボレーションが見られるということですね。
「スケート界の方たちや、いろんなアイスショーをご覧になられている方たちに、新しい提案と言いますか、パフォーマーとスケーターのコラボレーションの新しいかたちを楽しんでいただけるのではないかと思っています。『ファンタジー・オン・アイス』の名にふさわしい、よりファンタジックなセクションが作れたらいいなという思いで、今回、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の演出、そして出演をさせていただきます。ぼく自身も出来上がりを楽しみにしていますし、フィギュアスケートファン、そして作品のファンの方たちにも楽しみにしていただきたいと思っています。ぜひお越しくださいませ!」
―― 本番を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
(2025年4月、都内にて取材)