―― 海外選手の衣装も手掛けていますが、イリア・マリニン選手の衣装を手掛けることになったきっかけは?
「シェイからの紹介です。マリニンの衣装を作ってほしいと言われたのですが、アメリカの選手はけっこうシンプル路線だったりするので、私のキラキラした衣装がどう思われるのか最初は不安があったんです。でも初めてマリニンと、お母様でコーチのタチアナ・マリニナさんが仮縫いにいらして、お2人と話したときに、羽生結弦さんの『オリジン』の黒い衣装(2018-2019FS)をすごく気に入ってくれているようで、『動きやすければ、とにかく大丈夫。自由にしていい。キラキラもいっぱいつけていいよ』って、言ってくださったんです。パンツのシルエットは本人のなかでこだわりがあるみたいで、あまり大きくせずに、きれいに足にフィットさせるのがいいと言っていました」
―― マリニン選手もグランプリの取材のときに、衣装についてうれしそうに話していました。最初はちょっとダークな感じのコンセプトをシェイリーンさんに反対されたらしいんですが、いまは衣装もすごく助けてくれて、自分のやりたい世界観でできていると。
「本当ですか? うれしいです。シャツに血がついているのは、マリニンの案です。フィッティングしたときに、血をつけたいと言って、手袋にも血をつけたいんだと。マリニンは、意外と攻める衣装が好きなのかなと思いました」
―― アメリカ選手でいえば、今シーズン、イザボー・レヴィト選手の衣装もデザインされました。以前に「愛の夢」の衣装を作りたいと話していましたね。
「10年やってきたのに、『愛の夢』を誰も私にオーダーしてくれないなって思っていたんですが(笑)、まさかイザボーからくるとは思っていませんでした。すごくうれしいですね」
これから、フィギュアスケートに関して取り組みたいこと
―― 平昌で羽生結弦さんがオリンピック2連覇を果たした「SEIMEI」をはじめ、銀メダルの宇野昌磨選手のフリー、北京では羽生さんはもちろん、銀メダルの鍵山優真選手の衣装などを手掛けておられました。4年に1度のスポーツの祭典、オリンピックでご自身が手掛けた衣装を着ている選手が活躍されるのは、やはり特別な感慨がありますか。
「本当に特別な舞台なので、そういったところで選んで着ていただけるのは、とてもありがたいことだと思っています」
―― 衣装製作は、つねにアウトプットをしている状態だと思うのですが、アイディアにつまってしまうような瞬間はありますか。
「全然あります。もう何も出てこないなーというときがあります。そういうときは、やっぱり休息が大事なんです。本当に煮詰まったときは、仕事場に行かずに、小旅行というか、人のあまりいない、花畑だったり、自然の多いところにふらっといって、1回リフレッシュするようにしています」
―― 競技だけでなく、アイスショーにおいても、羽生結弦さんの「ICE STORY」シリーズをはじめ、浅田真央さんの「BEYOND」や「Everlasting33」など精力的に活躍されています。これからフィギュアスケートにおいて、どんなことに取り組んでいきたいと考えていますか。
「10年やってきたのですが、日本も海外もいろんな衣装屋さんが増えたと思っています。とくに韓国の衣装屋さんもいますごくクオリティが高い。自分も含めて、日本の衣装のレベルをもっと上げていかなければいけないとすごく思っています。だからこそ1回お休みして、フィギュア界全体を外側から見て、レベルアップできればなと思っています。
それから、衣装に対して強化費が出ないことは残念だと感じています。連盟の方々も衣装に対していろいろ意見をくださいますが、そうしたらなおさらもっと連盟がサポートするべきなのではないかとずっと思っています。自分なりにスケーターに対してサポートができる何かがあるのではないかと、いまちょっとずつ模索しています」
―― 衣装製作の面からフィギュアスケーターの活躍を支えてきた伊藤さんならではの、貴重なお話をどうもありがとうございました。