今シーズン、ジュニアグランプリで2勝をあげ、初出場したジュニアグランプリファイナルでも初優勝したジェイコブ・サンチェス選手。パワフルなトリプルアクセルと、スケートを心から楽しむ伸びやかなパフォーマンスが持ち味の17歳です。昨シーズンのユースオリンピックでは、SP1位から総合4位となり、喜びと悔しさを経験しましたが、今シーズンはシニアのチャレンジャーシリーズに初挑戦して優勝するなど、勝ち切る強さを身につけてきました。ユースオリンピックで親交を深めた中田璃士選手や、親友でロールモデルでもあるイリア・マリニン選手など、周囲からの学びを素直に吸収する成長株が、1月21日から始まるシニアの全米選手権に初出場します。昨年12月のジュニアグランプリファイナルで優勝した直後、自身の成長と友人たちの存在、全米選手権での目標を語ってくれたインタビューをお届けします!
観客の存在を力に掴んだジュニアGPファイナル初優勝
―― ジュニアグランプリファイナル初出場初優勝、おめでとうございます。
サンチェス ありがとうございます。スーパーハッピーです! でも、結果に対してはいまも畏れ多い気持ちが大きくて、とくに昨シーズンが終わってからはずっと夢みていたことだったから、それが可能になるだなんていまだ考えられないくらい。昨季、初めてジュニアグランプリのアサインを2戦もらったんですけど、2戦ともかなりミスをしてしまいました。ファイナルに挑戦したくて、それをメインゴールにしていたんですけどね。それもあって、今年は新しいアプローチで臨むことにしたんです。結果や順位よりもスケートを楽しむことにもっと重きを置こうと考えていました。
―― その心がとても演技に表れていたと思います。演技を楽しむ心はどうやって自分のなかで育てていったんですか。
サンチェス オフシーズンにとにかくメンタルゲームに強くなるように練習に取り組みました。スケートにおけるプライオリティを変えることを自分の仕事として、アプローチの仕方も変えた。練習から1日ごとに変えていって、いま試合でそれが出せている感じだと思います。1位を獲りたい、2位を獲りたい、どうにか結果を残したいというところからはっきりと変えていって、とにかく試合に出てすべての瞬間を楽しみたいと考えるようにしていきました。いまでは、勝利や数字のことは抜きにして、ただ演技を披露して、自分が大好きなことを楽しんでいます。
―― ジュニアグランプリファイナルには、ジュニアグランプリ2勝のトップ選手として臨み、今日のフリーでもSP2位という優勝候補の1人でした。そういった状況下での緊張のコントロールもうまくいった?
サンチェス ショートプログラムの終わりまではね、まだ楽しめていたんですよね……。多少のミスもあったし、もっとうまくできただろうところもあったけど、実際いい滑りをすることに集中できていて、これまでで最高の自分を出すことができたと思います。ただ、今日のフリーは、本当にまだ緊張が解けていないくらいで、昨日の夜もうまく眠れなかった。何度も寝返りを打っては今日のフリーのことを考えちゃって。会場に入る前だって昼寝をしようと思ったのに、それもできないくらい気持ちがエキサイトしていたし、フリーのことを考えちゃっていました。そうですね、緊張していました。どの試合も同じだってちゃんとわかってはいるつもりですが、これだけ強い選手たちが集まったグループで、しかもこの立ち位置で戦うということは、かなり神経をすり減らすような大仕事でした。でも、そのなかで自分をコントロールできたことはうれしいことでした。
―― 緊張感を感じさせないくらいのびのび演じているように見えましたが、滑っている間はどんなことを考えていましたか。
サンチェス フリーの最初のトリプルアクセルのあとにミスをしてしまって、それをどうにか考えないようにというか、そこに固執しないようにと考えていました。3アクセル+3トウにしようと思っていたのに、2本目がダブルになってしまったから、その場で後の3フリップ+2トウを3トウのコンボにしようと考えを切り替えて。結局、その作戦がうまくいったことが、今回の結果を大いに助けてくれたと思います。そのあとはもう全部を出し切ることだけに集中していました。後半の3本のジャンプは寝ていても跳べるくらい自信があったしね。コレオシークエンスは自分の持っているすべてを捧げようと考えていたんだけど、観客のみなさんが驚くほど素晴らしくて、演技の原動力になっていました。
最初はホッケー選手になりたかった
―― これまでにダンスやほかのスポーツを習った経験はありますか。
サンチェス いろいろやっていましたよ。サッカーでしょ、空手に野球も少し。でも本当はアイスホッケーの選手になりたかったんです。ただ、ホッケーはうまくいかなくて、いまはフリータイムに楽しんでいます。それが競技以外のことを考える時間にもなっていて助けになっていると思う。あと、サッカーはいまもかなりよくやります。ホームリンクや試合でもサッカーでウォームアップしていて、すっかりルーティンのなかに組み込まれています。
―― ダンスについては?
サンチェス ここ2、3年はバレエを少し習っていますが、どうしてもスケジュールの関係上コンスタントに続けるには至っていません。ただ、リンクにダンスの先生が来てくれるので、プログラムの振付を見てもらっています。彼にいろんなダンスも教えてもらっていて、すごくおもしろいです。
―― ホッケー選手になりたくてスケートを始めたあとで、フィギュアスケートを選んだのはどうしてですか。
サンチェス そうなんですよね、ホッケーをやりたくてスケートを始めたんですけど、全然うまくいかなくて……。(笑)毎秒転んでいたぼくに、ある人がフィギュアスケートを勧めてくれたんです。フィギュアスケートをやってみたら転ばずにその場に立つことができたので、ストローキングから始めて、あちこちでステップを踏むようになったころに、いまのリンクでスケートをきちんと習うようになりました。そのときに先生がぼくの成長がいかに早いかと教えてくれて、個別にコーチをつけるようにと勧めてくれました。芽が出るのはすごく早かったみたいなんですが、コーチたちと一緒にここまでがんばってきて、いまのチームは11年目です。
―― フィギュアスケートを実際にやってみて、いま惹かれるのはこのスポーツのどんなところ?
サンチェス パフォーマンスです。見るのも好きだし、氷の上で人々に向けて演技できることもフィギュアスケートの大好きなところ。これがいちばん! ジャンプもスピンも、競い合うことももちろんいいんだけど、ジャッジに向けても、お客さんに向けても、練習中にコーチやほかのスケーターたちに向けてパフォーマンスするのだって大好きです。
―― これまで見たなかで、とくに感動したパフォーマンスは?
サンチェス 1つは、間違いなく昨季の世界選手権でのイリア・マリニンのフリーです。もう本当に最高だった。2018年の平昌オリンピックの羽生結弦のフリーもめちゃくちゃ好きだし、昨季の鍵山優真のフリーもモチベーションとインスピレーションをものすごくもらえる大好きな演技です。