苦しみと喜びのシーズン序盤
新しい装備を携えた坂本のシーズン初戦は、9月にイタリアのベルガモで行われたロンバルディア・トロフィー。世界女王の肩書を得てから初めての試合でもあったが、結果は2位とほろ苦いスタートとなった。
2戦目は、今季の世界選手権と同じさいたまスーパーアリーナで行われたジャパンオープン。この大会はフリーの演技だけで勝負をする団体戦だが、ここで坂本は世界女王としての強さを見せる。146.66点をマークしての首位。回転不足等はあったものの、マイナスの評価が一切つかない出来だった。「この演技ができたのは奇跡」「集中すればノーミスができるといういいきっかけになった」と手ごたえを掴み、グランプリシリーズへと向かった。
ジェットコースターのようなグランプリシリーズ
坂本のグランプリシリーズ初戦は、第1戦のスケートアメリカ。ショートプログラム、フリーともに首位での完勝。15歳のイザボー・レヴィトに「カオリの強さがあこがれ」と明かされ、セルフィーを求められるなど、世界女王らしいシーンもあった。
しかし、続くNHK杯のショートプログラムでここまでの流れが止まった。ルッツのエッジエラーやコンビネーションジャンプでの回転不足が続き、キム・イェリムに次ぐ2位。フリーでも3本のジャンプで回転不足となって、今季のグランプリ2勝目を逃がした。
12月、シリーズの集大成となるグランプリファイナル。ショートプログラムではノーミスの演技をして意地を見せるも、フリーではやはり回転不足のミスを抑えられずに6位。総合でも5位という結果に終わった。この苦しい時期のインタビューで、坂本は自身の中にある「悪魔」の存在を明かしている。「悪魔」と本人は呼ぶが、これほどの実績を重ねてきたアスリートならば当たり前の感情ではと思える、世界女王の葛藤ーー。
「去年頑張ったし、いいやん」「今シーズン、しんどいのやらんとこうよ」っていう悪魔がいます。
NHK杯、FS後のインタビューより
悪魔はまえよりかは、ちょっとちっちゃくなりました。でも、いる。
グランプリファイナル、一夜明けてのインタビューより
復活の全日本選手権
グランプリファイナルから2週間も経たないうちに幕を開けた全日本選手権。共にグランプリシリーズを駆け抜けてきた戦友たちに加え、今シーズン世界でももっとも勢いのある選手と言っても過言ではないニュースターの島田麻央をはじめ、ジュニア勢とも同じ舞台で戦うこととなった。前日練習で「今シーズンのなかでいちばん充実した時間を過ごせた」とファイナル後の時間を振り返った坂本。たった1週間の準備期間を、走り込みやプログラムを最後まで滑り通す曲かけ練習など、自分を追い込む厳しい練習の時間に当てた。その充実を演技で示すかのように、ショート、フリー共に1番の武器である幅のあるジャンプをそろえ、参考記録ながら自己ベストに迫る得点をたたき出した。
フリーの最後のポーズを終わったときは、もうきつくて。いつもみたいにガッツポーズできるぐらいの余裕があんまりなかった。
全日本選手権、フリー後のインタビューより
フリーの演技後、記者たちの前でこう語った坂本。歯を食いしばりながら、暗いトンネルの出口を自分の力でこじ開けて見せた。