いざ、全日本へ――。国内最高峰の大一番への出場を目指し、選手たちがしのぎを削る戦いがいよいよスタートした。初戦は、全国を6つのブロックに分けて行われるブロック大会だ。
9月22~24日の東京選手権、中部選手権、9月29日~10月1日の近畿選手権、東北・北海道選手権、10月8~10日の中四国九州選手権、関東選手権。3週にわたる戦いの先陣を切った東京ブロックから、今回はシニア女子3位で表彰台に乗った青木祐奈(日本大学)をクローズアップする。
9月23日、東京選手権シニア女子のショートプログラム。36番目の滑走でリンクに滑り出てきた青木祐奈は、冒頭に3回転ルッツ+3回転ループを決めると、花が咲くようにぱっと微笑んでみせた。3ルッツ+3ループは世界的に見ても数人の選手しか跳ぶことができない難技。そして青木にとっては、最初に彼女の名を知らしめる原動力となった、トレードマークともいえるジャンプだ。
2014年の全日本ノービスAで3ルッツ+3ループを決めて優勝した青木を、小誌が練習リンクに訪ねたのはさかのぼること8年前、2015年3月のこと。青木は当時、弱冠13歳の中学1年生。まだあどけない顔立ちと、ひたむきに練習に取り組む姿勢。のびのびとフィギュアスケートを楽しむ、天真爛漫なスケーターという印象だった。
ジュニアに上がると、秀でた表現力を発展させながらジュニアGPなど世界の試合に進出。だがその後、シニアに上がる時期と前後して青木は怪我を負い、結果が出せない期間を経験することになる。22年春には中庭健介コーチ率いるMFアカデミーに移籍。大学4年生で迎えた今シーズンは、強化選手Aの指定も受けた。苦労を重ねつつ、努力を続けてここまで戻ってきた青木が決めたクリーンな3ルッツ+3ループに、その軌跡をよく知るファンが大きな喝采を送ったのももっともなことだった。
SP「Young & Beautiful」は自分で振付をしました。大人になったいま、若いときの楽しさを振り返るような表現をしたいと思っていて、振付でも同じような動きが多くならないよう、メリハリをつけるために鋭い動きを入れるように工夫しました。
大学4年生なので、集大成として1試合1試合を大事にしていきたい。ありがたいことにNHK杯にも出していただけることになったので、がんばってきてよかったと思っています。あまり緊張せずに、しっかり練習してプログラムの完成度を上げていきたいです。
9月23日、SP終了後の囲み取材より
SP3位で臨んだ24日のフリーでは、ミーシャ・ジー振付の「She」を披露。淡い藤色のドレスに身を包み、持ち前のエレガントな表現のなかに見ごたえあるジャンプやスピンを溶け込ませる、美しいプログラムだ。まるでバレエのようなアームスの動き、スケーティングを感情表現に結びつける繊細な表現力は彼女ならではのもの。今季の2つのプログラムは、まさに集大成にふさわしい。
フリーでは私の滑りの優雅さという部分を出しながら、出だしのところはスケートを始めたころの楽しさ、初々しさを表現し、途中で曲調が変わるところからは怪我をして結果が出ない期間を、また曲調が変わるコレオシークエンスのところからは羽ばたいていくような、私のスケート人生をすべて詰め込んだプログラムになっています。
小さいころから応援してくださっているファンの方々も大勢おられますし、最近になって応援してくださるようになったファンの方々にも、いろんな方に私のスケート人生をお伝えできるようにということを、いちばん大事にしていきたい。
お客様の前で滑ることがいちばんの幸せ。1日1日を大切にすることをつねに頭に置いて、残り短い期間をしっかり過ごしていけたらなと思っています。
9月24日、順位決定後の囲み取材より
「100%決定ではないけれど、引退を視野に入れている」という節目のシーズンを、しっかりと踏みしめながら歩んでいる青木。よいときも、悪いときにも支えられてきたファンへの想いは格別だ。このあと、全日本への出場を懸けた東日本選手権、そして願い続けたNHK杯の大舞台に臨む。その歩みを通して、色彩豊かなエモーションに彩られた“青木祐奈”というストーリーを、観客に届けてくれるに違いない。