フィギュアスケートのトップ選手が活躍するうえで、トレーナーの存在は欠かせません。高みに向かってチャレンジを続けている鍵山優真選手(オリエンタルバイオ/中京大学)を、トレーニングやコンディショニングの面から支えているのが、パフォーマンススペシャリストの淺井利彰さん。森永製菓が運営するトップアスリート専用施設「森永製菓 inトレーニングラボ(以下、㏌トレーニングラボ)」で、鍵山選手がつねに高いレベルのパフォーマンスを実現するためにサポートしている淺井さんに、選手にとってのトレーニングの重要性について聞きました。
最高のパフォーマンスを発揮できるように
―― 鍵山優真選手のサポートを2021年の夏から始めたそうですが、どのようなお仕事をされているのでしょうか。
「『inトレーニングラボ』では、森永製菓がスポンサードしているアスリートに対して、彼らが最高のパフォーマンスができるように、私たちトレーナーと栄養士が協力し、包括的にサポートに当たっています。最新の スポーツ科学、栄養学などを研究しながらサポートしているのですが、私は、選手の身体的なところをどう改善するかを考え、トレーニングプログラムを作成し、実施してもらっています。ぼくはマッサージケアもするので、試合に帯同したときには、ストレッチやマッサージなどケアを行います。いまは週1回ぐらい中京大学でトレーニングとケアを行っています。じつはフィギュアスケートの選手のサポートをするのは、鍵山選手が初めてだったんです。競技によって必要とされるトレーニングは異なりますので、フィギュアスケートというスポーツの特性も研究しました」
―― フィギュアスケートの特性から考えると、どんなトレーニングが大事なのでしょうか。
「あくまで鍵山選手に限った、私の経験則になってしまうのですが、フィギュアスケートでは、エッジを使って、氷に力を上手く伝えることが非常に重要になってきます。そのためには、足の膝とか股関節を上手く使える必要があります。これは、力を大きく出すというより、使い方の上手さが重要。関節を上手く使うには、よく言われることですが、体幹がしっかり安定していなければいけないんです。体幹の筋力も必要ですが、それよりも正しいポジションで適切なタイミングで力を出すことが重要です。そのためには、たとえば、筒状のストレッチポールの上に背骨が載るように寝転がって、手足を動かしてみるエクササイズも有効です。ストレッチポールに乗ることで、関節が正しい位置に戻り、背骨の並びが整います」
―― 激しいトレーニングでなくても、体幹は鍛えられるのですね。
「鍛え方がよくないと、スピードをつけて回っていくのに、やはりどこか力を変に使ってしまって、ケガの原因になったりします。100ある力を50しか使えないと、結局スピードが出ず、回転もできないというところに繋がってしまいます。一瞬で力を出すことも重要ですが、タイミングに合わせてうまく使えるかがより重要かなと思います」
―― いまどんな取り組みをしていますか。
「瞬発力やスピードの強化に取り組んでいます。また、鍵山選手は、練習量をしっかりとる選手ですので、まず怪我をしないように、コンディションで痛いところを出さないように意識しています。やはり彼の場合は、2022年夏に右足首のケガがあったので、再発させないことを、一丁目一番地として考えています。疲労骨折は、目に見えないところで進行し、ある日症状が現れますので、日々の練習で疲労の蓄積がないようにするのが非常に重要です。足首、膝、股関節と3つの関節をしっかり使って、1点に負荷がかからないような取り組みをしています 」
―― 身体のメンテナンスも大事ですよね。
「ジャンプの着氷時には、足首に負荷がかかり、膝下の筋肉に硬さが出やすいと思います。あれだけスピードを出して、フィギュアのように4回まわって着地すれば、身体には何かしらストレスがかかります。鍵山選手はご自身でもきちんとストレッチですとか、メンテナンスをすごくされる方ですが、やはり自己管理ではなかなか難しいところがあるので、ぼくらトレーナーがサポートします。また、全体的なパフォーマンス向上のため、栄養士が食事指導も行い、サプリメントだけではなく、どんな食事をどのタイミングでとったらいいかをアドバイスします。また、同じ栄養素を摂っても、きちんと吸収されているかは個人差がありますので、提携している病院で血液検査を行い栄養状態の確認などもしています」
―― 淺井さんは、2つのトレーナーの資格のほか、鍼灸師や柔道整復師という国家資格をお持ちだそうですが、トレーナーのお仕事にはさまざまな資格が必要なのですね。
「いまラボに7名のトレーナーがいますが、この資格がなければ、といったことはとくに指定していません。ただトレーニングという観点では、やはりスポーツ科学――身体を動かす仕組み、身体をどのようにコントロールするかという知識は必要です。それから、ストレッチには必要ありませんが、治療などの行為になると資格が必要になりますので、持っていると、プラスになると思います」