たったひとつの人生をちゃんと生きる
―― 横浜での2日間を終えて、いかがですか?
「これまでツアーということで、その回を重ねるごとにいろんな課題が見つかったり、達成できたものが見つかったり。本当毎回毎回、進化すべきところが見つかっていくので、なんかある意味、前半は特にですけど、競技者として戦っていくような、過去の自分をどうやって乗り越えていくのか、強くなっていくのかっていうことを常に考えながら、本当にストイックに自分を追い込みながら練習をして来れた横浜公演だったなって思ってます」
―― 今この3公演(さいたま、佐賀、横浜)を走りきってみて、心にあるのは充実感?
「達成感はありますね。やっぱり本当に、今までの自分と比較しても、一番練習してきたんじゃないかなってちゃんと思えてますし。食事面だったり、睡眠面だったり、いろんなことにずっと気を使いながら、過ごし続けた日々だったので。それがある意味報われた1日でもありましたし。何より見てくださる方々が本当に嬉しそうな顔をしてくださってたんで、ほんと頑張ってよかったなって思ってます」
―― これでアイスストーリーセカンドは終わりますけども、また新しいアイスストーリーを期待してる方も多いかなと思うんですが、何か羽生さんの中で構想は?
「いやーもう本当、GIFTの時も思いましたけど、もうすっからかんなんで今。もうとにかく出し尽くしたなって思えるぐらい、今日もここに魂を込めて滑りを置いてきたと思いますし。何よりこうやってアイスストーリーとかアイスショーとかそういったことをさせてくださるのは、やっぱりこうやって取材に来てくださる皆様だったり、見てくださる皆様だったり、それを読んだり聞いたりしてくれる皆様がいるからこそだと思っているので、そういう方々に本当に感謝の気持ちを持ちながら、これからも自分なりに一生懸命頑張っていきたいなって思っています」
――「『破滅』ノーミス」とおっしゃっていたが、『破滅への使者』のテーマについて伺いたいのですが、なるべく簡潔に。
「ははははは。(笑)簡潔に言えば、日々が毎日続いていく。で、その中にはすごく刺激的な日々があれば、何もない本当にどんよりとした暗闇っていうか、曇りの続いたような日があったり。そういう中でも生きていこうって、皆さん生きてくださいって、そんなメッセージをぼくはこの中に込めてるつもりです。その中で最終的に命っていうのは巡っていくし。でも巡っていくけれども、たった1つの今のこの人生をちゃんと生きてほしいって、そんな祈りを込めて、このストーリーを作りました。簡潔でした?大丈夫?(笑)」
達成感の嬉しさとともに、寂しさも積もって
―― ツアー完走、おめでとうございます。
「あーッす。すみません。めっちゃアメフト部みたいな。あーッす」
―― ツアーを完走したことで、プロとしての新たな可能性や、走り切ったことで見えてきたものは?
「アイスストーリー改めてめちゃくちゃきついなっていうのを感じています。もともとGIFTに関しては、一回公演だったっていうこともありますし、また前半の中の最後の演目が、試合のプログラムでしたけどショートプログラムだったんで、まだなんとかやれてたのかなと。で、今回構想上、フリーとほぼ同じ状況に挑みたいっていうのを思って作っていったんですけど、本当に大変でした。ただ、こうやってツアーという形で何回も何回も挑戦をさせていただくことによって、やっとこういうふうにトレーニングしたら結果が出せるとか手応えみたいなものをまた改めて感じてきたので、毎回毎回レベルアップできるように、それこそ自分のストーリーの中でもありますけど、経験を積んで、またより一層いい、技術的にも高い自分を見せていけるように、なんか頑張れるんじゃないかなっていう希望を持てました」
―― 3公演やったことで進化させられたものは? 気持ちとか肉体とか。
「またトレーニング方法だったりとか、練習方法みたいなものが、また改めて確立されてきたのかなっていう感じがしてます」
―― 表現面で進化させられたみたいなものは?
「それはもう滑り込みあるのみっていうことと、あとは作曲者の思いであったりとか、自分がストーリーに込めたい気持ちだったりとか、またその演出、照明を作ってくださっている方々の、見せたい思いとか気持ちとか、そういったものは何だろうっていうことをすごく考えながら。またその回数を重ねるごとになんか感じながら滑れたのが大きかったのかなとは思います」
―― この1ヵ月ですけど、どうしてそこまで自分を追い込めたんですか? 1日6時間の筋トレとおっしゃっていましたか?
「例えばなんですけど、朝起きて1時間ストレッチとトレーニングして。で、練習行って、3時間トレーニングとスケートして帰ってきて、1時間半トレーニングして。で、寝る前に1時間イメトレして、みたいな日々をずっと繰り返してたんで、かなりあの試合やってるよりも練習したり、イメトレをしたりしてきました。でも、なんかそれは本当にいいものを見せたいって思ったのと同時に、なんか自分の実力がその自分が見せたいものよりも圧倒的に劣ってるっていうことを改めて感じたので、まだまだ進化し続けたいなって思ってます」
―― 「破滅への使者」のノーミスを評価すると?
「なんか試合みたいな感想になっちゃうんですけど、ああ、やっと練習報われたなって思いました。本当に毎日あの3回通して3回ともノーミスみたいなことを毎日やってるんですけど、やっぱり前半全てを通し切りながら、毎回映像の部分はひたすら着替えて靴を履いてみたいなことをずっと繰り返して、握力とかもなくなっていく中で、やっぱ滑るのとは全く違ってて。でもこういった中で、ノーミスできたことは、また改めてその自分がやってきたことが正しかったんだって思える瞬間でもありました」
―― この物語の中に、たくさんのメタファーが入ってると思うんですけれども、水はどんな意味を表現していますか。また『いつか終わる夢』の木の意味も教えていただけますか。
「なんか水って、命の根源みたいなイメージがあって。生命が誕生するときに水の中から生まれてくるっていうイメージが自分の中では強くあって。で、その水があるからこそ、植物ができたり、自分たち哺乳類ができたり、そういった何か進化の過程の中の根源っていうもので、命の象徴として水みたいなものを使っていました」
―― あの木の枝は道を表現してるのかなと思ったんですけど、違っていますか?
「命が、例えば人生みたいなものが木の芽から始まってきたとしたら、それがだんだん分かれていって、いろんな方向に進んでいく。でも、その根源を探してみたら、みんな1つの生まれたての本当に何もない自分でしかなくて。そこからいろんな道に分かれていって、いろんなことをやっていく。そこで枝が折れちゃったりするけれども。だけれども、そこから歩いて行けばなんとかなるんじゃないかな、みたいなことをMIKIKO先生といろんなイメージを共有しながら作っていったつもりです」
―― 最後、ご挨拶の時に「寂しいな」っておっしゃいましたけども、これは「RE_PRAY」との別れということなんでしょうか? それとも続編とか再演など、この「RE_PRAY」の先は何かあるんでしょうか。
「うーん、何ですかね。なんか自分の中で、わりと今日完結できたなっていうぐらいの達成感があったので、ある意味、皆さんにとってはイメージがしづらいかもしれないんですけど、ある意味、自分のなかでオリンピック獲ったなぐらいの勢いでめちゃくちゃ練習して来れたことが達成できたので。達成できたからこそ嬉しいし、嬉しさと共にその寂しさが一緒に積もってきたっていうか、なんか達成してしまったみたいな感覚で寂しいなってちょっと思いました。でもまだまだこれから構成上げられると思いますし、もっと強くなれると思うので、もっと練習しますって感じです。
(取材終了のアナウンス)皆さん、本当にありがとうございます。ありがとうございます。これからもアスリートらしく頑張ります」
―― 佐賀が終わってから練習をガンガンやったのですか。
「佐賀があまりにも自分の中で悔しくて。なんだろう? あの……スケカナで惨敗した、みたいな(笑)。わかります?、みなさん。恒例の、グランプリ恒例の1戦目みたいな。そんな感じだった。一生懸命頑張りました。またよろしくお願いします。本当にありがとうございました。ありがとうございました」
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