9月29日、女子シングルの紀平梨花選手(トヨタ自動車)が、西山真瑚選手(オリエンタルバイオ)と組んでアイスダンスに挑戦することが発表され、2人はカナダからオンラインで記者会見に臨みました。アイスダンスに初挑戦する紀平選手は、「これまでのシングルの人生が本当に考えてもなかったような形になってはいるんですけど、アイスダンスをいますごく楽しめていて、これからワクワクする大きなチャレンジになるので、全力でがんばっていきたい」と意気込みを語りました。また西山選手は「今回こうして素晴らしいフィギュアスケーター、紀平梨花さんといっしょにアイスダンスを組めることになって、すごくうれしく思っています。彼女といっしょに自分たちの目標をつかみにいけるように努力していきたい」と期待を込めました。
9月にモントリオールでトライアウト
西山真瑚は今シーズンに入ってまもない7月に田中梓沙とのアイスダンスチームを解散し、紀平梨花は9月にシングルでエントリーしていた中部選手権を欠場。今後の動向がそれぞれ注目されていた2人だったが、29日、新チームの結成を電撃発表した。
記者会見で、紀平は「この話が進んだのも本当につい最近です。もともと私はミラノ・オリンピックに向かってシングルで中部選手権に出場することを目標にがんばっていたんですけれども、やはり右足の距骨の怪我があり、高難度のジャンプや右足のトウをつくジャンプが最終判断として難しいとなりました。やはり1度だけではなく、練習を積まないといい演技はできないので、そういった面を含めて、シングルでの今年の活躍は難しいとお医者さんと相談して、最終的に欠場を決めたんです。その前からトロントでよく真瑚くんとは練習したことがあり、先輩というか友だちというか、そこまで話したことはあまりなかったんですけど、知り合いだったので、トロントで会ったときに、いまの足の状況を話す機会があって。欠場を決めてから本格的にトライアウトをスタートしました」と結成の経緯を話した。
西山は、シングル時代からアイスダンスを始めてしばらくはトロントのクリケットクラブを拠点にしており、現在もクラブの会員ということもあって、9月にクリケットに遊びに行ったときに紀平と話したという。「ぼくのほうから『息抜きでトレーニングの一環として、お互いのスケーティング技術向上のために、もしよかったらモントリオールにいつでも来てね』という話をしたんです」。そして、中部選手権を棄権することがわかり、モントリオールでトライアウトを実施。「ぼく自身すごく梨花ちゃんと滑るのが楽しくて、梨花ちゃんも同じふうに思ってくれた。2人の目指すところが同じということも相まって、じゃあもう2人で組んでみようかとなりました」
2人が練習拠点とするカナダの「アイスアカデミー・オブ・モントリオール」は、世界各国のアイスダンス代表が多数しのぎを削る、まさに現在のアイスダンスの一大中心地だ。西山がコーチ陣に紀平のアイスダンスへの挑戦を伝えると、「え~! 本当にやるの?」と驚愕していたという。西山も「ぼくも『モントリオールに来てね』と言ったとはいえ、本当にトライアウトをするんだ! と思ったので、先生たちも同じ気持ちだったのだと思います」とうれしい驚きだったことを明かした。
西山が紀平と組む決め手になったのは、「スケートの質」だと話す。西山は「ぼくたちはもともとクリケットで練習していたので、ぼくはクリケットでトレイシー・ウィルソンさん(1988年カルガリー・オリンピック銅メダリスト)からスケーティングを叩きこまれたし、梨花ちゃんもトレイシーからスケーティングをたくさん教わったと思う。まずいっしょに滑ってみて、すごくスケートの質が同じだなと感じました。もちろん彼女はもともと上手ですけれども、実際滑っても、お互いがお互いのことを邪魔することなく、スムーズに滑れたというのが第一印象。もちろん組んだり技をするのは、完全に新しい技術なので、そこに関しては2人で取り組んでいかなければならないところなんですけれども、彼女は学ぶのがすごく早い。アイスダンスはたくさん考えて動かないといけない競技でもあるので、スケートの感覚がいい、アイスダンスにも向いているスケーターだなと感じました」と紀平を賞賛した。
アイスダンスへは転向ではなく、紀平はシングルとの二刀流というスタンスのようだ。紀平は「いまはアイスタンスに集中するという形を選択させていただいてるんですけど、シングルを引退というわけでもなく、この先滑っていって、シングルにも後々生かせる部分がたくさんある。詳しくはまだもやっとしているんですけれども、並行してやっていく形で、いまはアイスタンスに集中しています」と説明した。
オリンピックへの強い思い
北京に続いてミラノ・コルティナ・オリンピックでも、女子シングルでのオリンピック出場を目指していた紀平だが、その願いは叶わなかった。紀平は「ケガを抱えて、半年前だったりとか1年前だったり、精神的にもきつかった時期がずっと続いていて、悩んで自問自答しながら、できることを続けてきました。そういったスケーティングを続けてきたという部分でも、今回アイスダンスの挑戦に繋がればいいなと思いますし、いまは前を向いています」と心境を明かした。「(アイスダンスの挑戦について)家族とか友だちとかみんなすごく喜んでくれています。私はそう簡単なものではないと思うんですけど、素晴らしいものをお見せできるようにはしたいと思ってます」
2人の愛称について、紀平は「“りかしん”がいちばん落ち着く」と言い、西山も「そうだね。その名称で応援してくれたらうれしいです」とほほ笑む。“りかしん”の初戦は、11月上旬の西日本選手権(アイスダンス予選会)となる予定だ。リズムダンスは「マンボNo.5」、フリーダンスは「もののけ姫」。12月のグランプリファイナル後に、日本の団体戦出場が決まれば、2026年オリンピック出場の可能性もある。そのためには、まず11月上旬の西日本選手権(アイスダンス予選会)に出場して好成績を収め、国際大会派遣に選ばれなければならない。
西山は「ぼくたちの大きな目標は2030年のオリンピック」と話す。だが、ミラノ・コルティナ・オリンピックに関しても、もちろん視野には入れてはいる。紀平は「ギリギリ間に合うかもしれない状況で始めることができた。可能性がある限りはチャレンジせずにいる選択肢は違うのかなと思った。間に合わせるように努力することを決めたんですけど、いまの段階ではどうなるかわからないし、細かい目標はまだ難しい。毎日毎日進歩しているなかで、とにかく急ピッチで仕上げていった先に、結果がついてくると思っています」と意欲をみせた。西山も「もちろん行けるチャンスがあるなら行きたいと2人とも強く思っています。ただ日本に素晴らしいアイスダンスチームがいるので、いまの自分たちがミラノ・オリンピックに行きたいですと簡単に言える立場ではないと思っています。まずは1日1日を大事に積み重ねていきたい」と力強く語った。