7月9日、北京オリンピック銀メダリストの鍵山優真選手がホームリンクである中京大学アイスアリーナでの練習をメディアに公開しました。練習後には、鍵山選手、鍵山正和コーチが取材に応じ、新シーズンへの意気込みや戦略を語りました。
新フリーは集大成の「トゥーランドット」
公開された練習では、父・鍵山正和コーチが見守るなか、プログラムのパート練習を中心に行った。6月末のドリーム・オン・アイスで初披露したSP「I Wish」は、ジャンプやステップを繰り返し確認し、曲かけ練習では4フリップ、4トウ+3トウ、3アクセルを入れて成功させるなど、順調な仕上がりを見せた。

いっぽうのリーは「トゥーランドット」。荒川静香や宇野昌磨など、日本の先輩スケーターたちもこの曲でオリンピック・メダルを獲得してきた名曲だ。振付を担当したローリー・ニコルが、グラミー賞作曲家のクリストファー・ティンとタッグを組み、鍵山のために音楽を構成。ティンがワシントン・ナショナル・オペラで制作した新たなフィナーレを含むオリジナルバージョンを、ニコル、カロリーナ・コストナーコーチ立ち合いのもと、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏、イングリッシュ・ナショナル・オペラのコーラスで収録された。
今回のタッグに、ティンは「『トゥーランドット』の新しいエンディングはどこかで録音したいと思っていたので、いい機会に恵まれました! フィナーレの完全版だけでなく、ユウマのオリンピックシーズンのフリープログラムのための、4分10秒バージョンも編曲しました。ユウマのために音楽を編集するうえで、ローリーとのコラボレーションは、私にとって新しくエキサイティングな経験でした。オペラやバレエ、映画、ビデオゲームなど、さまざまなジャンルとコラボレーションしてきましたが、フィギュアスケートの技術に寄り添うスペシャルバージョンを作ることは興味深くおもしろい経験になりました」とコメントを寄せている。

公開練習のこの日は、「完成度の高いステップの部分だけ」と、クライマックスの「誰も寝てはならぬ」に乗せたステップシークエンスをお披露目し、プログラムの全貌は今季初戦の名古屋市スケート競技会 みなとアクルス杯(7月20~22日/邦和みなとスポーツ&カルチャー)で初披露となる。
正和コーチ「コンポーネンツで満点をもらうことを重視」
練習後に取材に応じた正和コーチは、オリンピックシーズンの展望、そして新プログラムの手応えについて語った。

去年は技術を追い求めすぎたところがあったので、彼自身も体力的、精神的なプレッシャーが大きかったと思う。それでなかなかうまくいかないシーズンになってしまったことも踏まえて、練習でストレスのないようにしたいので、いまできることを練習していこうと話はしました。いまの段階で目指しているのは、技術の点数を高めていくことより、コンポーネンツで満点をもらうことを重視して考えています。(世界選手権のあと)彼自身はルッツを入れる意識を持っていたみたいなんですが、「いまはそこを省こう」と話をしました。いまは彼がのびのび練習しているのが見えます。だから、まずはストレスのない練習をいちばんに考えていくと、いまの状態がベストなのかなとは考えていますね。
「トゥーランドット」は、ローリーさんから振付をしてもらっている段階でも、ちょっとプレッシャーではないですが、「なぜこの曲を?」と思う気持ちのほうが大きかった。でも、作っていくうちに「いや、これでよかったんだな」という気持ちが強くなっていきました。個人的な感情にはなるんですが、次のオリンピックを目指すかどうかは年齢的にもわからないじゃないですか。引退に1年1年近づいている、オリンピックとしては集大成になるのかなという気持ちも強まってくるなかで、出来上がっていく様を見ていると、なんかもう感無量――というわけではないんですが、素晴らしいものに仕上げてくれたなと、感謝の気持ちがいまは強い。誰もが「まだ見ていたい」と思う「トゥーランドット」にしてもらえたら。練習を見て「ジャンプいらないよね?」って思っちゃったんですよね。ジャンプや競技性がなくても見ていられるプログラムを作っていただいた。仮に失敗したとしても、ジャッジや観客の方たちが感動できるようなプログラムに仕上げていければと思います。逆に言えば、そこに対してプレッシャーはありますが、素晴らしいプログラムを作っていただいたので、それをただすべてのお客さんに、すべての試合で見せてくれればいいのかなと思います。
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