増田貴久の熱演、SUGIZOの圧巻のパフォーマンス
増田貴久は持ち前の身体能力と本質をつかむ力で、今回の「氷艶」のためにフィギュアスケートを体得。氷上の殺陣で魅せたほか、美しいイーグルやターン、クロスやバックスケーティング、極めつけのニースライドなど、多彩なスケーティングを表現手段として使いこなして観客を驚かせた。戦いのためだけに生まれた冷徹な存在から、次第に周囲を思いやる心を育み、平和を願うようになっていく吉備津彦の変貌を好演。客席の間を縫って歩きながら歌い上げるソロナンバーに、その想いのすべてが凝縮されている。桃太郎の家来「雉、犬、猿」になぞらえ、吉備津彦を見守る3人の家来を表情豊かに演じた財木琢磨、島田高志郎、田中刑事は、爽快な殺陣やアクションもさることながら、クスッと笑わせるコメディリリーフとしても作品に心和むひとときをもたらした。
さらに圧巻だったのは、スペシャルゲストアーティストとして参加したSUGIZOのパフォーマンスだ。作品を彩る音楽の作曲をすべて手がけただけでなく、カリスマ的なオーラをまとってステージ上にたびたび登場し、ギターやヴァイオリンを演奏。エネルギッシュでエモーショナルなロックサウンドが熱く物語を後押しする。
音と光を駆使し、映像表現でも魅せる最新の舞台技術も際立っており、ことに蛍を模して空間を埋め尽くす光の乱舞は幻想的だった。
吉備の鉄器を司る”鉄の女神“を力強く表現した荒川静香、祈り女・幽を演じた村元哉中が神話的な空気をもたらし、吉備の里を導く八雲を演じて「氷艶」になくてはならない存在感を示した福士誠治、温羅と夫婦となる阿曽媛をスケート経験を活かして可憐に舞った森田望智、大和朝廷を率いる影帝を演じた吉田栄作、温羅の腹心・千秋を演じた青山凌大ら俳優陣が物語を推進する。殺陣に群舞に大活躍だったアンサンブルスケーターもスケートの魅力を存分にアピール。氷上に登場するすべてのキャラクターがいきいきと息づくエンターテインメントを作り上げた。
全編を通してキーワードとなっているのは「なぜ、戦う?」という問い。温羅からも、吉備津彦からも、何度も発せられるその言葉は、物語のバックボーンを支えるのみならず、現代を生きる人々に響く問いとして、重要な意味を帯びていた。温羅と吉備津彦の関係をはじめ、キャラクター同士の対立と葛藤、運命をめぐる相克がいくつも重なり合い、重厚な人間ドラマを織り上げる「氷艶 hyoen 2025 -鏡紋の夜叉-」。7月7日まで全5公演が予定されている。