2024年10月15日
米国スケート連盟が発表した音楽著作権処理の方針をめぐって

INTERVIEW 町田樹「フィギュアスケートと音楽著作権」

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まずはスケート界から、変わるべきときが来ている

―― 音楽業界に伝えたいことはありますか。

町田 舞踊やフィギュアスケートは、音楽がなければ存在できないので、確かに音楽に「従属している」芸術やスポーツなのかもしれません。けれども、ときに音楽の新たな価値を見出したり、新たなリスナーに音楽を紹介する機会にもなっているはずなんです。舞踊やフィギュアスケートなどのアーティスティックスポーツというのは、いままでクラシック音楽に興味のなかった人がスケートの演技でクラシック音楽に関心をもつとか、多少なりとも音楽業界に貢献している面があると思います。そういったところを加味していただいて、現実的な価格で、音楽の著作権がクリアランスできるように考えていただきたいということをぜひお願いしたいです。ただ、こうしたお願いをする前に、フィギュアスケート業界の側が著作権のクリアランスを徹底するなど、スケーターや関係者の意識改革を行わなければなりません。こうしてフィギュアスケート業界と音楽業界の両方が歩み寄らないと、なかなかこの問題は解決していかないと思います。

―― 制度を整えるには時間がかかることもあるでしょうが、今すぐ取り組めることはありますか。

町田 まずコストをかけずにできることは、「氏名表示権」を守るということ。音楽の作曲家や演奏家などの氏名を表示し、使用音楽とそれに関わるアーティストをリスペクトするということです。たとえば、ベートーベンの「月光」と一口に言っても、どのピアニストが弾いたかで味わいが異なります。日本スケート連盟をはじめ、競技会の主催者、放送する事業者は、大会のウェブサイトや画面、パンフレットなど、あらゆる媒体を通じて、氏名を表示する取り組みをすぐにやっていくことが大事だと思います。




―― プログラムによっては、音楽がパッチワークのような編集をされている場合もありますね。

町田 私は音楽家と対談したり、コラボレーションする機会が多くありますが、毎回音楽家の方に「フィギュアスケートの音楽編集や氏名表示はなんとかならないのか」と言われます。アーティストのみなさんはやさしいから、フラストレーションを自分のなかだけにとどめておいてくださっているけれども、内心はひどいと思っているんです。音楽の著作権者には、「同一性保持権」という権利もあります。作者の意に反するような編集をされない権利があるのです。演技時間が決まっているから、厳密に言えば、編集せざるをえないことはもちろんわかっているんですけど、極力編集を減らす、あるいは時系列を乱さないようにするなどの配慮が必要です。

これを文章の著作物に例えて説明してみましょう。文章で、どこか一段落を削ったら、どれだけ論理が変わりますか? あるいはセンテンスや段落を入れ替えたらどうなりますか? 意味が通じませんよね? 音楽も一緒なんですよ。音楽を文章として置き換えたら、どれだけ大変な編集をしてしまっているかわかると思うんです。だから著作物本来の価値を、その重みを感じて編集しないと、やはりアーティストの意に反してしまう。まずはフィギュアスケート界からきちんと直していって、きちんと徹底された暁には、音楽業界にもお願いすべきことを言っていけると思うんですよね。まずは、フィギュアスケート界が変わらなければいけないときが来ているというふうに私は思います。

―― ところで、町田さんは、昨年、非営利であれば、誰でも、いつでも、どこでも、自由に使用できる振付と音楽を提供する「エチュード・プロジェクト」を立ち上げ、大きな話題を呼びました。(詳しくは⇒ https://worldfigureskating-web.jp/interview/4572/)この9月23日には、大阪で第2弾の作品を発表されるそうですね。

町田 今回、ありがたいことにピアニストの福間洸太朗さんが協力してくださいました。作品は、クラシックのパブリックドメインの曲で、ショパンの「プレリュード第7番」を用いた50秒ほどの小作品です。タイトルは《朝露》(Morning Dew)と命名しました。振付は、大人の初心者でも取り組めるように、前回(エチュード第一作品《チャーリーに捧ぐ》)よりも格段にやさしい内容になっています。今回はスリーターン、ブラケット、ロッカー、カウンターといったフィギュアスケートの根源のターン4種類を学ぶためのエチュードプログラムとなっていて、超初心者から中級者までレベルに合わせて3つのバリエーションを作りたいと考えています。

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。

※町田樹さんのフィギュアスケートと音楽著作権に関するさらに詳しい提言はこちらから⇒ https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/556776/4b0cecd4c42acfb15581cae1be3e2fa0?frame_id=1089454

プロフィール
町田樹(まちだ・たつき)1990年生まれ。2014年ソチ・オリンピックで個人と団体で5位、同年世界選手権で銀メダルを獲得。同年12月に競技を引退、2018年10月にプロスケーターを引退。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士課程修了。大学の卒論以来「フィギュアスケートと音楽著作権の関係」を研究テーマの一つとしてきた。大学院時代の論文で、令和2年度日本知財学会優秀論文賞を受賞。主著は『アーティスティックスポーツ研究序説』(白水社)。現在は、國學院大學人間開発学部准教授として研究を続けながら、振付家として活躍。2024年4月には、上野水香、高岸直樹とともに舞踊公演「Pas de Trois」に振付家とダンサーとして参加した。9月23日には、大阪で「エチュード・プロジェクト」の第2弾を発表する。
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