フィギュアスケートの魅力
―― まもなく2月下旬には四大陸選手権が始まりますが、中野さんは四大陸選手権にたびたび出場され、表彰台に立った経験もありますね。
「ISU選手権に出られるのはとても名誉なことで、四大陸選手権に最初に荒川静香さん、村主章枝さんと出場できたときは、楽しかった記憶しかないです。楽しいまま終わっちゃった! という感じでした。でも2回目、3回目と出ていくうちに、だんだん守りに入ってしまう。だから選手たちには、最初の楽しい気持ちを大事に思い出してくれたらなと思っています」
―― 四大陸選手権に出場する選手たちに期待することは?
「四大陸選手権は、日本の選手が負けなしというくらいに活躍している大会ですが、今シーズンも表彰台独占も十分狙えますね。ショート、フリーともにミスをなるべく少なくしつつ、ひとつの作品をいかに総合的に表現できるかが、勝利に導くカギなのだと思います。世界選手権につながる大会として、より洗練された自分を見せていく場ですから、それぞれ自分らしい演技を見せてもらえたらと願っています」
―― ご自身もトリプルアクセルジャンパーだった中野さんですが、今季はアンバー・グレン(アメリカ)がトリプルアクセルを毎試合決めていますね。男子でも、イリア・マリニン(アメリカ)が4回転アクセルを跳んでいる状況ですが、こうしたジャンパーたちについてはどんな風に見ていますか。
「じつは一昨年、さいたまで開催された世界選手権を見に行ったときに、マリニン選手が4回転アクセルを跳ぶところを目の前で見たんです。高く豪快な弧を描くタイプではないですが、ものすごい回転の力で、あの滞空時間のなかで4回転半回ってしまうんだと驚きでした。力で回るタイプもいれば、角速度回転で回るタイプもいますが、腕の締め方をより細くすると、細くて速いまっすぐの軸で跳ぶことができる。私もスケートを辞めて何年も経ってから、たくさんの選手を見て『こうすればいいんだ』と学んでいます。みんながそうやって研究を重ねていると思いますし、その研究がいまの技術の向上につながっているんでしょう」
―― 道具の進歩なども影響しているんでしょうか。
「スケート靴がいまはとても軽くなっています。私のころは両足で3kgくらいだったのが、いまは両足で2kgないくらい。約1kgも軽量化されています。そのぶんジャンプも跳びやすくなるはずで、自分のもっている滞空時間で回転しやすくなるわけです。スケート靴の進化も4回転時代が生まれた要因のひとつだと思います。たとえば伊藤みどりさんだったら、いまの靴なら5回転が跳べるんじゃないでしょうか」
―― ペアやアイスダンスの見どころについては?
「西日本選手権で初めてペアの審判に入りましたが、長岡柚奈&森口澄士ペアは素晴らしく感激しました。2人になるとスピード感がいっそう増して、ダイナミックになりますから、見応えがありました。じつは私もペアのトライアウトをした経験があるんですが、組んで滑ると『ちょっと違うな?』『この人の滑りは合うな』といったスケーターならではの感覚がある。ペアはやはりお互いの相性が重要なのだと思います。また、アイスダンスは深いエッジワークとユニゾンに注目してほしいです。アイスダンス選手は、エッジワークはもちろん、体の向きや腰の位置、指先まで揃えることを何度も指導されています。『アイスダンスを見なさい、表現面で勉強になるから』と、指導を受けていた佐藤信夫先生やアメリカで習ったマリーナ・ズエワ先生にも言われていました。ぜひ、中継や配信でペアやアイスダンスも見ていただけたらと思います」
―― 中野さんにとって、フィギュアスケートの魅力とは何だと感じていますか。
「私は信夫先生から、『スケートのいちばんの魅力はスピードだよ』とつねづね教わっていました。『スピードに勝る魅力はない』というのが信夫先生の口癖で、練習でもとにかくスピードを出せといつも言われていました。あの風を切っていく感覚は気持ちいいですし、試合を見るときに感じるスピード感は、やはりスケートの大きな魅力かなと思います。速く滑るためには、足さばきなどの基礎がしっかりしていないとできないんです。ジャンプも、スピンも、また表現もスケートの大きな魅力ですが、基礎がないとそこまでつながらない。そう考えると、スピードを出して滑ることは、スケートの根本にあるのかもしれないですね」
―― スケートファンに伝えたいことは?
「講演会でもよくお話しするのですが、日本では選手の名前がコールされて拍手が起きたあと、必ず一瞬静かになります。仮に1万人以上の観客の方がいても、静寂が1回ある。その瞬間はすごく神聖な場所だという感じがします。それは観戦マナーの素晴らしさでもありますし、ファンの方々の選手たちへの想いだと受け止めています。そんなみなさんの想いとともに、スケートの数多い魅力や選手たちの個性をたくさん見つけて、たくさん応援していただいて、私もその1人としてみなさんと一緒に応援していきたいと思います」
―― 興味深いお話をたくさんありがとうございました。