フィギュアスケートの日本一を決める年末の大舞台、「全日本フィギュアスケート選手権」。国際大会に出場する選手にとってはシーズン後半のチャンピオンシップの切符がかかる緊張の舞台、国内を主戦場として戦う選手にとっては最大の目標となる夢舞台だ。今年は大阪府門真市の東和薬品RACTABドームで12月20~22日に開催される。
そんな全日本選手権で、さらなる飛躍を誓う選手がいる。父・大島淳をコーチとし、競技会だけでなくアイスショーの場でも観客を沸かせている大島光翔だ。幼い頃から赤い衣装をまとい、滑る楽しさがほとばしる演技を披露して、「スタァ」の愛称でフィギュアスケートファンから愛されている。また、フィギュアスケートの名門・明治大学の主将で、男子選手たちのムードメーカーでもあり、全日本選手権の名物といってもいいスケーターのひとり。大学4年生で迎える全日本選手権に、どんな想いをもって臨むのだろうか。
今年のショートプログラムに選んだ曲は「フラメンコ」。村元哉中の振付で、複数あった候補曲から高橋大輔が「すごくかっこいい」と気に入って選んだ。高橋と大島は今年2月の「滑走屋」、6月の「氷艶-十字星のキセキ-」で共演している。
そのショートプログラムを初めてお披露目したのは、7月28日に大阪の浪速アイススケート場で行われた「Figure Skating Festival」だった。このイベントで大島は「フラメンコ」を「かっこいい一直線のプログラム」と紹介した。
アンコールでは、フリー「Desperado」のステップを披露。「Desperado」はプリンスアイスワールドを長年率いた父の淳が最後のショーで使用した曲で、「自分自身、小さい頃にそれ(父の最後の演技)を見てかっこいいと思って憧れて、この曲をついに使う機会が来ました」と笑顔で話した。
9月、東京選手権
2024年9月22日、千葉県船橋市の三井不動産アイスアリーナ、シニア男子ショートプログラム。7月の「Figure Skating Festival」のときには新しい衣装が間に合っておらず、白いシャツに黒いベストという出で立ちだったが、東京選手権には「フラメンコ」のプログラムのためにあつらえた真っ赤な衣装で登場。大島は10番目の滑走だった。フラメンコのメロディを丁寧に拾いながら、ジャンプへ向かって行く。冒頭のトリプルアクセルは力強く着氷。続く3ルッツ+3トウはセカンドジャンプがステップアウトしたものの、集中力を切らさずに「フラメンコ」の世界観をキレと色香の融合で魅せていく。2つのスピンのあとにメロディーが盛り上がり、転調。転調に合わせて大島が手を叩くさまは「かっこいい一直線」そのものだ。その後、連なる音に気持ちよく乗って勢いを加速させていくと、3フリップを滑らかに着氷。プログラムの終盤は、密度の高いステップに必死に食らいつく。得点は74.65点、SP終了時点で4位につけた。
完璧だけを目指してブロックに向けてショートを仕上げてきたので、1つジャンプでミスが出てしまったのは本当に悔しいですが、自分の出せる「思い切り」は出せたのでよかった。先シーズンは自分の考えが甘かったので、それを改めて、ブロック大会に向けて100%仕上げた自分を持ってくるというのをまず目標にしていました。赤い衣装は「思い切り赤く、自分らしく」とお願いして作っていただきました。このプログラムは「かっこいい一途」で今シーズン表現をがんばっていきたいなと思います。フリーも自分のなかですごく特別な思いがこもったプログラムで、多くの人が観てくださる大会で披露するのは初めてなので、気持ちをしっかり切り替えてがんばりたいと思います。
翌9月23日、シニア男子のフリーは大会最後を飾る種目だった。大島の滑走順は21番目。同じ最終グループには佐藤駿、三浦佳生、島田高志郎、吉岡希の姿もあり、ブロック大会とは思えぬハイレベルな戦い。1度目に曲がかかったあと大島は、レフェリーにかけ直しを願い出た。再び曲が流れると、優しく風を切りながら滑り出し、冒頭の3ルッツ、3アクセル、3アクセル+2トウ、3ループを曲調に寄り添うようにシームレスに着氷。疲れの出てくる後半はギアをもう1段上げて滑り、3フリップ+オイラー+3サルコウの着氷直後にはバランスを崩すハプニングがありながらも、おどけたような笑顔で立て直す余裕も見せた。ステップではこの曲の静かなる情熱を届けるように、イナバウアーでは少し切なさも垣間見えるような表情で、大島光翔の「Desperado」を描き切った。
予定構成の冒頭の4回転ルッツは調子も上がらず、組み込むことができなかったのでそこはひとつ自分のなかで悔しい部分だと思うんですが、失敗を最小限に抑えることができたので、そこはよかったと思います。今回は最後まで全力で走りきることができて、最後のジャンプも力でなんとか決めきることができたので、練習の成果が出たんじゃないかと思います。(曲のトラブルは)見ているみなさんは気づかないくらいの本当に小さい音のラグといいますか、最初の1音がぼくの耳にはっきり届かなくて、そこでちょっと1歩目のリズムが狂ってしまったので、滑り直させていただきました。(東日本選手権に向けて)まだ上げていく余地はありますし、今回完璧に近かったからこそ少ないミスが自分にとってより悔しいものになったので、次戦に向けて細かいところを詰めていけたらと思います。
大学4年という、多くのスケーターがアスリートとしての進退を決める節目の年を迎えている大島光翔。このシーズン、どんな想いをもって滑っているのか、聞いてみた。
(決めていることは)何もないです。本当に今日の晩飯のことだけを考えて生きているので。そこについてはみなさんも安心して美味しいご飯を食べていただければと思います。(明治大学の)後輩たちにとって、前を見て歩けないくらいまぶしい先輩でいようと思います。
と持ち前のユーモアたっぷりに答えて見せた。