現在、帝国劇場で絶賛上演中の『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』。ご存じのとおり、フィギュアスケートのプログラムの音楽としても絶大な人気を誇る映画『ムーラン・ルージュ』をもとにしたミュージカルで、世界各国で上演され、ついに6月24日に日本版が開幕しました。プレビュー公演に合わせて、映画を手がけたバズ・ラーマン監督が来日。映画『ロミオ+ジュリエット』『華麗なるギャツビー』『エルヴィス』などで知られるバズ・ラーマン監督に、本作や音楽の魅力について聞きました。
日本版プロダクションで感じた大きな驚き
―― 監督の映画をもとにした『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』が世界中を旅して、いま日本にやってきたわけですけれども、どんなふうに受け止めていらっしゃいますか。
ラーマン 「ミュージカルはすごく楽しいね」って言われることが多いけど、作る作業っていうのはものすごく大変なんです。ミュージカルを成功させるのは至難の業であって、コメディをやっていたほうが無難です。ミュージカルは、演劇的要素がすべてあったうえに、音楽が乗っかるわけですから、とても複雑。ブロードウェイでも毎年新しいミュージカルが生まれるけど、そのほとんどが失敗に終わる。でもうまくいった作品は、ずーっと残るんです。たとえば、いまこの瞬間にも、世界中の誰かが『サウンド・オブ・ミュージック』を歌っているでしょう。どこかで公演が行われているでしょう。学校の授業だったり、学園祭だったり、どこかでやっている。このように息が長いというのは、たぶんミュージカルとは別に、歌自体が人気が出て有名になり、人々の心をつかんでいるということ。そうして、人々が歌えば、ミュージカルもまた思い出されるんです。
―― 実際に、日本版プロダクションをご覧になっていかがですか。
ラーマン まず、お客さんが入った時のパフォーマンスを見て、とにかく驚いたんです。日本の観客は静かだと、いままでの体験ではつねにそう思っていました。ところが、プレビュー初日、全員がものすごい拍手を送るし、歌の間ずっと手拍子をしているんです。ロックコンサートのように声を出すお客さんもいた。それがものすごく私には驚きでした。
それからいちばん私が感じたのは、悲劇性の高さ。切なさや哀しみ、悲劇の物語がものすごく胸に響きました。『ムーラン・ルージュ』と言えば、派手な歌や踊りといったカラフルな華やかさが印象的ですが、じつは最後は本当に悲しいわけですよね。俳優たちも、そして観客も悲劇の部分により反応するんだと思う。これは愛を失うこと、悲劇に美しさを感じるといった、日本の古典的な演劇などの文化的な背景があって、悲劇的な愛に反応が強いのだと感じました。
フィギュアスケーターが魅了される音楽
―― フィギュアスケートのプログラムでは、映画『ムーラン・ルージュ』からの音楽がたくさん使われています。とくに「ロクサーヌのタンゴ」はアイコニックな音楽になっているんですけれども。
ラーマン アルバムからの音楽を使用していると思うんだけれども、真ん中でちょっとゆっくりになって、最後にクレイジーで大きくなる部分がある。かなりオペラに近い構成になっています。いくつものヴァージョンが出ていて、ダイスケ・タカハシなどシングルの人も使っているけど、オリンピック(2018年平昌)でカナダのカップル、テッサ(・ヴァーチュー)とスコット(・モイア)も滑っていましたね。主人公が愛する者に去っていかれて、非常に痛みを感じて苦しんでいる。また怒りもあるし、暴力的で混乱もある。それらの解釈がきちんとしているなと感じました。
―― 監督の映画の音楽が本当にたくさんプログラムに使われています。
ラーマン 素晴らしいことです。『エルヴィス』の音楽はまだ使われていないと思うけど、もともと私の映画の音楽が使われているというので、フィギュアスケートを見始めたんですよ。『ダンシング・ヒーロー』というのが、ぼくの最初の映画だけど、ダンスとフィギュアスケートは非常に関係性がある。俳優のような感情が出ている演技は最高です。
じつは、私はスーパースターである、日本人のフィギュアスケーターの大ファンなんですよ。ユヅル(羽生結弦)は本当に素晴らしい。だからフォローしています。スーパースターで、ポップスターで、アクターで、そしてスケーターなんです。私の映画の音楽(『ロミオ+ジュリエット』)も使ってくれているんです。
*近日発売の「アイスショーの世界9」では、インタビューの完全版を掲載します。ミュージカルや音楽について、またラーマン監督が語る羽生結弦さんの表現の魅力など、興味深い話題に及んでいます。どうぞお楽しみに。
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