2024年11月21日
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づいた流通を

INTERVIEW 町田樹 エチュードプロジェクトを語る<後編>

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「みんなのフィギュア作品プロジェクト」(エチュードプロジェクト)で、久しぶりに町田さんが氷上を滑る姿が公開されました。伸びやかなスケーティングからは、スケーターのみなさんのスケーティング向上に活かしてほしいという願いがあふれてきます。インタビューの後編では、音楽の面でのコラボレーションについて、また作品を滑るうえでの注意事項やアドバイスについて、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」という考え方を軸に伺います。

前編はこちら>> INTERVIEW 町田樹 エチュードプロジェクトを語る<前編>

アーティストとのコラボレーション

―― 楽曲の面ではどんな取り組みをされたのでしょうか。通常、フィギュアスケートのプログラムに楽曲を使う場合は著作権料を支払わなくてはならず、そのために配信や映像化ができなかったりするケースもあります。

町田 前にお話しした通り、エチュードプロジェクトはスヌーピーのアニメから触発されて制作したのですが、アニメでペパーミント・パティが滑る曲が「私のお父さん」(プッチーニのオペラ『ジャンニ・スキッキ』のアリア)です。試合の直前にテープレコーダーが壊れてしまってピンチになったところで、練習をいつも見ていたウッドストックが機転を利かせてこの曲を口笛で吹き、演技を支えるという展開なんです。これはもう、エチュードプロジェクトもやっぱり「私のお父さん」で口笛でしょうと。(笑)日本にはたくさんの素敵な口笛奏者がおられるので、いろいろ聴かせていただいたなかで、圧倒的に情感のこもった、まるでオペラのような口笛を演奏される方がいた。それが青柳呂武ろむさんです。まるで歌うような演奏に惹かれて、青柳さんのオフィシャルホームページの問い合わせフォームからメッセージを送りました。

―― そんな出会いだったんですね!

町田 そうしたら即時返事が来て、ご快諾いただいたんです。呂武さんの推薦で、ハープ奏者の小幡華子さんも招聘し、お2人で編曲をして、レコーディングしてくれました。機能面では、とにかく著作権フリーにしたかったので、楽曲自体は昔のオペラで著作権の切れたパブリック・ドメイン、実演家である青柳さんと小幡さんにも「実演権」という演奏者の著作権を放棄していただくお願いをして、受け入れていただいた。もちろん、コラボレーションを行うことで、私と演奏家の方々とで、総合芸術として作り上げたいという情熱もありました。

新しい著作権ルール「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」

―― そうしたさまざまな工夫を経て、「誰もがいつでもどこでも無許諾で滑ることができる」というコンセプトが実現したわけですが、どんな方々に滑ってほしいと考えていますか。

町田 もちろん選手たちが滑ってくれたらうれしいですが、それ以上に、本当に必要にしている方々、つまり大人スケーターや学生スケーターの方々を想定しています。せっかく踊りたい気持ちがあっても、なかなか振付師に振付けてもらう機会がないスケーターはたくさんいる。そういう方々にまずは届けたいです。

◆エチュード#1−3 クリエイティブ・コモンズ・ライセンスについて(必見)

―― 著作権がオープンということですが、滑るうえで気をつけなくてはいけないことはありますか?

町田 ユニバーサルアクセスなプログラムを意図して発信するものなので、これは完全に非営利です。いま、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」という新しい著作権ルールが普及し始めています。普通の著作権は©で表示しますが、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスはCCと表記します。これは「この条件を守れば、私の作品を自由に使って構いませんよ」という意思表示をするためのツールなんです。

町田 CCマークの横にある記号ですが、「BY」は氏名表示権で、作者の氏名さえ明示すれば無許諾で自由に使っていいですよという意味。「NC」は非営利であればいいですよ、「SA」は継承といって、改変してもいいですが、この同じマークをつけて流通させてくださいね、というマークです。エチュードプロジェクトはこの3つの条件を守っていただければ、無許諾・無料・無償で滑っていただけます。クレジットの表記にも統一の書式を設けましたが、スペースがないときでも、「CC:町田樹 / Atelier t.e.r.m」と表記してください。

スケーターへのアドバイス

―― 滑るスケーターによって技術レベルも違うと思いますが、たとえばできないステップを省略したり、多少振付をアレンジしたりといった改変をしてもいいということですね。

町田 先程示した「SA」は、元の振付を著しく損なうことなく、常識の範囲内なら改変してもいいですよという意味です。私がデモンストレーションした《チャーリーに捧ぐ》の形態は、じつはそれなりに難しい。なかなか全員があのまま滑れるわけではないと思います。ですので、「イナバウアーからトウループを跳ぶのは難しいから、片足のアラベスクポジションですーっと滑ってからトウループを跳んでみよう」「ジャンプの回転数を落とそう」「コンビネーションスピンは難しいから、レイバックスピンにしてみよう」といった改変はありです。

「この改変はしてもいいのかな」と思うこともあるかもしれないですが、相談は不要です。無許諾で滑れる作品を出す時点で、多少の問題が起きることは想定済みで、でもたとえトラブルがあったとしても、それ以上に無許諾で出すことに意義があると思っているんです。作品に対する最大限の敬意をもっていただけるのであれば、自由に使っていただいて構わないです。

―― 非営利という部分なのですが、仮の想定として、アイスショーでこの作品を滑りたいというような場合は?

町田 営利目的の場合は、お問い合わせフォームを設置するので、そこからご連絡をいただき、相談することになりますね。ただ基本的には非営利のもとで滑っていただくプログラムです。私自身のYouTubeチャンネルも非営利ですし、ご自分が滑った動画をYouTube等にアップロードする際も、必ず非営利にしていただきたいと思います。

―― プログラムのあり方が改変によって変わったとしても、守ってほしいなと思っているエッセンスはどんな部分ですか。

町田 私は音に忠実に振付けているので、まずは音に忠実に滑ってみて、「音の波に乗る」というこの作品のテーマを感じるようにしていただきたいです。やはり、一朝一夕には滑れないですよね。私自身も新しいプログラムはそれなりに時間をかけて滑り込んで、やっと自分のものになった。もしこの振付を気に入ってくださるのであれば、何度も滑り込んでいただけたらなと思います。パートごとに、最初だけとか、サーキュラーステップだけといった練習でもいい。ご自身で、自由にスケーティングスキルを伸ばすための教材として利活用していただけたら、こんなにうれしいことはないですね。

それから衣装なんですが、基本的に自由ですが、アニメに登場するペパーミント・パティが鮮やかなブルージーンズの生地で作られた衣装を着用しているんです。それで、私の衣装もブルーを基調にしています。ですので、ぜひブルーをワンポイントでどこかにあしらっていただけると、作品世界にマッチするのかなと思っています。

―― SNSなどでシェアをすることが大きなモチベーションとなる時代になってきましたが、そうした新しいモチベーションについては、町田さんはどんなふうに考えていますか?

町田 フィギュアスケートは、自分で滑って「ああ気持ちいいな」という楽しみ方、モチベーションがあると思うんですけれど、やはり表現媒体なので、誰かに何かを表現するということが非常に大事だし、それも1つのモチベーションだと思います。誰もが競技会という表舞台に立てるとは限りませんし、とくに大人スケーターにはなかなか発表の機会がない。だからこそ、普段の練習のなかでこの作品を滑っていただき、それをチームメイトに撮ってもらって、「こんな表現をしているんだよ」ということを知らせるのはモチベーションになります。通常は楽曲に著作権があるので、SNSに上げられないことが多いですが、エチュードプロジェクトは楽曲の面でも著作権をクリアしている。著作権が完全にオープンなプロジェクトだからこそ、それができると思います。ですから、どんどんアップロードしてください。楽しみにしています。


★町田樹さんからWFS-Webをご覧のみなさまへ、動画メッセージをいただきました!

 

近日刊行のWFS別冊「アイスショーの世界9」(8月4日頃発売)でも、このインタビューの続きを掲載します。町田さんが研究者として取り組んできた仕事がどうエチュードプロジェクトに結びついたのか、著作権をオープンにするための費用負担を決断した理由、SNS全盛時代にスケーターが自己プロデュース力を発揮するために必要なことなど、さらに深い話題に及んでいますので、ぜひお読みください。

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プロフィール
町田樹 まちだ・たつき 1990年3月生まれ。國學院大學人間開発学部助教。2020年3月、博士(スポーツ科学/早稲田大学)を取得。専門はスポーツ&アーツマネジメント、身体芸術論、スポーツ文化論、文化経済学。フィギュアスケートの競技者として、2014年ソチ・オリンピック5位入賞、同年世界選手権準優勝。2014年12月に競技を引退後、研究活動に励む傍ら、プロスケーターとして自作をアイスショーで発表。2018年10月にプロを完全引退した。主な著書は、『アーティスティックスポーツ研究序説』(白水社、2020年/日本体育・スポーツ経営学会賞)、『若きアスリートへの手紙──〈競技する身体〉の哲学』(山と溪谷社、2022年/第33回ミズノスポーツライター賞最優秀賞)。2023年、(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞受賞。
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