2025年2月24日
アイスストーリー第3弾、その至高のパフォーマンス

羽生結弦「Echoes of Life」、最終公演を迎える

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これからもどんどん変わっていける

公演のたびに進化の度合いを高め、回を追うごとにクオリティを磨き上げて、羽生と彼を支えるMIKIKO氏はじめ製作スタッフとのコミュニケーションも深まってきたアイスストーリー。第3弾を締めくくり、羽生は改めてアイスストーリーという、自身のスケートと物語を届けるために生み出したかたちへの強い想いを語った。

「これ以上ないなという出来で締めることもできたので、ちょっと放心状態でもあるんですけど、言葉とか文字だけではぼくは表現しきれないし、このアイスストーリーというものは、スケートだけでも表現しきれない、唯一無二のものだと思っているので、今日の演技と演出と、物語がこうやって映像で残ったり、見に来てくださった方々の記憶に残ったりしてくれるのが本当にうれしいなという気持ちでいっぱいです」

「Echoes of Life」の7公演を経て、アイスストーリーを通して想いを届けること、そして自身の進む道への確信はより強まったように見える。

「この物語を執筆して、実際にツアーを完走して、自分自身が思った、考えが深まったことのひとつなんですけど、未来なんてやっぱり誰もわからないなっていうことが、いちばん自分の心のなかに、このツアーを滑りながら残ったものです。それは北京オリンピックもそうでしたけれども、どんなに努力してもやっぱり報われないなって思うこともあるし、どんなにいいことを繰り返していたとしても、不幸なことが起こってしまうのが未来だし、だからこそ、簡単に『こんな生き様』とは言えないんですけど、でもとりあえず、生きている今を、まっすぐ自分の心と自分の正義を信じて、まっすぐ進んでいきたいなと思います」

これまでに羽生が作り出してきた氷上の物語――「GIFT」、「RE_PRAY」、そして「Echoes of Life」には、それぞれに異なるテーマがありつつも、いずれもインスピレーションのひとつに孤独というものがあったのではないか。それは共通理解の場としての孤独のことであり、生きるうえで誰もが抱くもの、誰もが向き合い、ときに苦しんだ経験をもつもの。その場が導くのは孤絶とディスコミュニケーションではなくて、分かち合い、手を伸ばし合う共感であり、よりよき未来への祈りなのだ――「Echoes of Life」には、これまで以上に強く、そんなメッセージが込められていたように感じられる。この解釈は間違っているかもしれないと思いながらも、「3作品を通して、比類のない規模で多くの人との協力のなかで作品を生み出し、物語の中でも答えを出してきた経験を経て、いま自分にとって孤独とはどういうものか」と問うと、羽生はこう答えてくれた。

「なんかあんまり、孤独とは思っていないんですよね。ただ、戦わなきゃいけないときだったり、もちろん人間だれしも持っていることだと思うんですけど、そのすべてを共有できるわけではない。なんだろう、とても悲しいことだけれども、自分の苦しみだったり、喜びだったりを全部共有できるわけじゃないじゃないですか。それってみんな孤独だなと思ってて。でもだからこそ、人間は言葉というものを使うし、文字を使うし、それをNovaで表現したかったのは、たとえその世界で1人だったとしても、文字や記録や音とか、そういうものがある限りは1人じゃないんだということを表現したつもりなので。ぼくが孤独だとかっていうのは、そんなにあんまり思っていないんですけど、最近は。ただみなさんのなかにある、ちょっとした孤独、みんなが気づいてくれない孤独みたいなものに対しては、『いや、大丈夫だよ』という気持ちで、表現したつもりです」

争いや悲しいニュースが連日舞い込むこの世界で、『1人じゃないよ』『大丈夫だよ』という想いを込めて、『祈る』――。その営みのかけがえのなさ、限りない優しさこそが、見るものの心を揺り動かしていくのだろう。いまはまだ、次回のアイスストーリーの構想は「ゼロ」だというが、羽生は最後に、これからについても話してくれた。

「新しいトレーニングも始めてみて、可動域を上げるとか、単純に柔軟性が上がるとかっていうだけじゃなくて、使える体の動きと、どれだけリカバリーを早くできるかということと、あとは自分の特徴である、しなやかさ、美しさみたいなものへの磨き方みたいなことを、広島の直前くらいから練習を始めているんですね。それがやっと今回まとまってくれたなっていう感覚で今います。なので、これからまたどんどん変わっていけるんだなって言う感触が、実感が今はあります」

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