全身で祈る、ひたすらに祈る
「わたしの強さの『音』よ、響け」という鼓舞とともに滑る「Goliath(2024Remix)」、第2部に入り、すべての力を振り絞ったあとのひとときの安らぎと生命の芽吹きを届ける「アクアの旅路(Piano Solo Ver.)」。探求は続く。終わりの見えない階段を昇り続け、命の意味をつかもうとしてつかめない焦燥感にかられる主人公。やがてNovaに訪れる啓示のように、羽生は自身の声を伴奏として滑り始める(「Eclipse/blue」)。音と言葉を軸につづられるストーリーが行き着くべき必然ともいえるような、羽生のスケーティングと羽生の声が溶けあう、儚くも美しい瞬間だ。
限りある時間を想起させる時計のイメージが印象的な「GATE OF STEINER -Aesthetics on Ice」を経て、主人公は自分の「今」を受け入れ、再び生命が芽生える再生の喜びをこめて「Danny Boy」を滑る。心に沁みるノスタルジックな調べとともに、生きることを寿ぐ慈愛のひととき。
「とにかく全身で祈るというイメージでずっと滑っていました。その祈りが、『ダニーボーイ』のいわゆる原点にある死者への弔いという意味の祈りでもあるし、ここに来てくださっている会場のみなさんの希望への祈りであったりとか、ぼく自身の個人的な幸せへの祈りだったりとか、こうやって作ってくださっているスタッフへの祈りだったりとか、本当になんかもう、ごちゃっといろんなものが混ざってしまってはいるんですけど、一緒くたに音とともに祈るという気持ちで、ただひたすら祈っていました」
「ストーリー的に言うと、あのシーンは生命がほとんどなくなってしまったなかで、やっと芽吹きが与えられることに気がつき始めるというところで。自分の周りに命が宿っていくことの祈り、その1つ1つの命がどうか育ってくれますように、みんな生きてくれるようにということへの祈りが、Novaとしてはいちばん強かったです。最後は『みんな生きて』と言っていました」
最後に、物語のモチーフとなっていたいくつもの扉をくぐっていく「全ての人の魂の詩」を滑り終えると、Nova/羽生はまた新たな一歩を踏み出していく。