アイスダンスの魅力を伝えるなら? おすすめはあの演技
―― お2人が本拠としているアイスアカデミー・オブ・モントリオールは、世界各国の才能が集うアイスダンスの殿堂です。アカデミーのすごさをどう感じていますか。
田中 自分はアイスダンスを始めたのがここですので、ほかとの違いはわからないんですけれども、アイスダンスに特化したチームで、アイスダンスのためにつながるものがすべて用意されていると思います。
西山 アイスアカデミー・オブ・モントリオールには、ダンスやバレエなどの先生がリンクに来て指導してくれます。自分たちで探さなくても、スケート以外のジャンルでも、スケートに精通している先生がいらっしゃるんです。
―― アイスダンスは、エッジワークが大事と言われますが、シングル経験のあるお2人から見て、アイスダンサーのエッジワークはどのように見えますか。
田中 初めてモントリオールに来て思ったのは、シングルでいくらステップが上手いと言われていても、アイスダンスにおいては、それは当たり前とかそれ以上の人たちばかりなので驚きました。
西山 アイスダンスではエッジやターンの正確さにおいても求められるレベルが高い。トップで活躍している選手のエッジワークを生で見るといつもすごいなと思っています。アイスダンスのエッジワークとシングルとの関連で言うと、アイスダンスをやることで、ジャンプに入るときのエッジをより感じられたり、ステップがよりよくなったりしますし、もちろんシングルをやることでアイスダンスにいい影響もあります。ただ、エッジワークに関しては別物だなと思います。
―― アイスダンスの素晴らしさをたくさんの人に伝えるとしたら、おすすめのアイスダンサーやこの演技、というのはありますか?
田中 オリンピックのテッサとスコット(ヴァーチュー&モイア=平昌オリンピック金メダル)の「ムーラン・ルージュ」です。
西山 ぼくもまさにそれを言おうと思っていたんです。アイスダンスで圧巻だなと思った演技です。やっぱりすごかった。
田中 アイスダンスを知らない方でも、あれはすごかった! と言っていらっしゃったので、やっぱりおすすめです。
リズムダンスはディスコ、フリーは「エリーゼのために」
―― アイスダンスという種目は、リズムダンス(RD)とフリーダンス(FD)で競われます。今季のRDのテーマは「1950、1960、1970年代のソシアルダンスとスタイル」ですが、RDのプログラムについて教えてください。
田中 ディスコの音楽で、3曲をつなげて作られています。
西山 先日、たまたま飛行機のなかで、映画「トロールズ」という子ども向けのアニメを見たんですけど、そのなかでぼくたちが使っている3曲のなかの1曲「セプテンバー」という曲が使われていたんです。踊りで世界が楽しく、平和になるみたいな内容だったので、ああ、こういう楽しい雰囲気で踊れば、見てくださるみんなも楽しくなれる――そんな世界観を作れたらいいのかなと思っています。
―― フリーダンスについては?
田中 フリーは「エリーゼのために」です。みんなが思っている綺麗な王道の「エリーゼのために」なんですが、後半で曲の雰囲気が変わります。
西山 音楽はクラシックですけれども、アイスアカデミー・オブ・モントリオールの表現の先生と一緒に、プログラムが1つの作品になるような物語を作りました。子どもから青年、大人と曲が進むにしたがって成長していくというのがテーマです。最初はピアノが大好きな子どもたちを表現していて、途中で貧しくなりピアノを手放さなくてはならなくなる。ちょっと悲しい青年期を送るんですが、大人になって、自分がもともと弾いていたピアノを見つけて買い戻す。そして最後はそのピアノをまた楽しく弾く――そんな物語です。
NHK杯でグランプリシリーズ初出場へ
―― 今季の目標を教えてください。
田中 シーズンが始まる前に2人で話していた目標は、自分の怪我(肋骨の骨折)の影響で、すべてを成し遂げるのは難しい状況ですが、まずはいまの状態でできる最大限の演技をどの大会でも出すというのがいちばん近い目標です。
西山 それこそ健康でいるのが大事ですし、初歩的ではあるんですけれども、とにかく練習を毎日続けることが目標です。もちろんどの大会でも、その時の自分たちのベストを尽くして、できるだけ高い順位に行きたいというのはあります。でも、まずはNHK杯や全日本など出場できる大会にはすべて出場して、来季も見据えて自分たちの経験と実力を積んでいけたらいいなと思っています。
そう話していた2人は10月25、26日、全日本へ向け、テクノルアイスパーク八戸で行われたアイスダンス予選会に出場。遅めのシーズンスタートとなったが、初戦を無事に終え、2人とも「ほっとしています」と安堵の表情を見せた。田中選手の怪我の影響で、練習を再開できたのは大会のわずか2週間半前、フリーが通せたのは5、6回程度だったという。西山は「NHK杯、全日本ともっと完成度を高めていけるようにしたいと思います」と話し、田中も「リズムダンスとフリーダンスの課題点をもっと磨いて、この大会よりもいい演技を目標にやっていきたいと思います」と前を向く。
2人にとって初のグランプリであるNHK杯は、11月8~10日、国立代々木競技場第一体育館で開催される。昨季をもって全日本5回優勝の小松原組が解散し、世代交代が加速している日本のアイスダンス界。西山は「かなだい(村元哉中&高橋大輔)さんや小松原(美里&尊)さんたちに負けないように、自分たちも後輩たちにとって、そういった大きい存在になれるように頑張って取り組んでいきたいなと思います」と力強く語る。豊かな表現とさわやかで清新な個性を生かし、力を合わせ前へ進んでいる“あずしん”。今季、そして来季へ向け、期待はふくらむばかりだ。
提供/オリエンタルバイオ