フィギュアスケートを長年取材し、ソーシャルメディアなどの発信でもファンの多いアメリカ人名物記者のジャッキー・ウォンさん。2025年全日本選手権を観戦するために日本を訪れたジャッキーさんに、戦いを見届けた感想、試合を見ていて気になった選手たち、そして7日からシニアの戦いが始まる全米選手権の展望をインタビューしました。
Jackie Wong
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日本の選手たちは個性のある人間、アーティストとして大きく成長した
―― 今回の全日本選手権を取材して、いかがでしたか。
ジャッキー 素晴らしかったね! これまで数多くの大会を見てきたけれど、なかでも最も素晴らしい大会のひとつに数えられると思います。ぼくはかなりの数の試合を見てきているけれど。ものすごく楽しかったし、すごい演技ばかりで、観客も最高だった。日本にとって、オリンピックに向けた完璧な舞台設定でしたね。ぼくもここに来られてよかった。来た甲斐がありました。
―― 日本は選手層が厚く、オリンピックへ出場するという目標を叶えた選手、叶えられなかった選手が出ました。どう感じましたか。
ジャッキー 最初は冗談半分で言ってたんだけど、実際には冗談でもなんでもなく、とくに女子は世界のどの大会よりも層が厚いカテゴリーだったと思います。フリーの第1滑走の選手から、すでに3回転+3回転を跳んでいて、しかも最初のグループが終わった時点で、首位の選手が180点を超えていたでしょう(金沢純禾、181.67点)。レベルが異常なほど高い。ジャンプだけじゃなくて、振付、基礎的なスケーティング、すべてにおいて全員が素晴らしい。日本のスケートは、とくにここ10年くらいで、選手たちが個性のある人間として、アーティストとして大きく成長したところをとても評価しています。プログラムが量産型じゃないっていうのかな。ジュニアからすでにそうで、金沢純禾、岡万佑子、そのほかのジュニアたちも、13~15歳くらいですでに明確な視点を持っている。滑れて、跳べて、全部ができる。本当に驚きだし、次世代を見ていくのが楽しみですね。
もちろんオリンピックの選考会ではあるけれど、今回の大会には引退を迎える世代の選手が何人もいた。客席を見回すと、みんな泣いているんだ。観客が全員ちゃんと知っているんだね。たとえば青木祐奈なんて、本当に素晴らしい演技で、この試合で見せてくれた2つの演技はオリンピックでも10位以内に入ってもおかしくない内容だったと思います。彼女はおそらくオリンピック代表には選ばれないんだろうけど(註:インタビューは女子競技終了後、代表発表前に行った)、日本女子の競争がどれだけ激しいかの証明だと思う。とにかく、この試合が見られたこと自体が特権的なことでした。
―― 青木選手は試合前、「選手としては去年までと思っているので、私のフリー『ラ・ラ・ランド』で、オリンピックシーズンのピリつきを一瞬忘れてもらえたら」と言っていたんです。
ジャッキー いやいや(笑)。祐奈にはぜひ(ISU選手権への)派遣をもらってほしいし、四大陸選手権には行ってほしい。本当に素晴らしいスケーターです。彼女の秋シーズンがもう少しうまくいっていたら、今回の試合はまったく違う展開になっていたと思う。

―― 優勝は坂本花織選手の5連覇でした。
ジャッキー 本当に素晴らしかった。花織はこれで全日本6回目の優勝、しかも5連覇達成。これだけプレッシャーの充満した状況を何度も経験して、その1つ1つの経験から学んできたことが生きている。今回はとくに重圧がすごかったでしょうね。直前に228点(島田麻央、228.08点)が出て、その後に滑らなければならなかった。そして花織はやり遂げた。フリップで少しミスが出ても、すぐに切り替えて滑り切ったのは本当に立派でした。

樋口新葉についても賞賛したいです。今シーズンは怪我があり、スケートアメリカで演技を見たときはすべての動きが痛そうだった。でも1ヵ月後のこの全日本での練習は、少しは楽になっているんじゃないかと思いました。もしこの試合が4ヵ月前だったなら、あるいはあと2~3ヵ月先だったなら、まったく違う結果だったと思う。だから残念ではあるけれど、彼女は彼女らしいスタイルで締めくくった。三原舞依にも同じことが言える。舞依らしさを貫いたと思います。

いっぽうで、中井亜美は将来性が抜群。トリプルアクセルについては成功率の点でぼくはまだ少し慎重な見方をしているけれど、今回はアクセルが入らなくてもプログラム全体がとてもよかった。シーズンを通して努力してきたことが各試合で見てとれたし、オリンピックに値することを自ら証明しました。千葉百音も、ループとサルコウにはメンタル的な不安が見えたし、とても慎重にやっていたけれど、最後までやりきったのは立派だった。それがいちばん重要だからね。
それからジュニアたち。島田麻央、岡万佑子! 麻央が来季シニアに上がるのが本当に楽しみ。万佑子の音楽センスは本当に感心した。シニアでもできないような音楽解釈をしていると感じました。動きもとてもよかったし、彼女らしさがある。あれは教えられるものじゃなくて、天性のものだと思います。

渡辺倫果もいい演技をして、フリーはアクセルを2本決めたけれど、スコアは140点台だった。サルコウは認定されたっけ?(プロトコルを確認する。2アクセル+1オイラー+3サルコウの最後のジャンプは3サルコウqに)……あ、されているね。今季、倫果ほど努力をした選手はいないと思うから、得点にはかなり落胆していたんじゃないかな。少なくともあの時点では暫定首位に立てると思っていたはず。コンポーネンツスコアの面で、プログラム構成が十分に練りきれていない部分が点数に表れてしまったのかと思う。ジャンプは揃っているから、改善点は明確だし、倫果ならやれるよ。
―― 引退を考えていたけれど、この結果はまだ引退するなという意味なのかと話していました。
ジャッキー 競技を続けてほしいです。彼女の決断を見守りたい。

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