2025年6月4日
衣装デザインと、結婚と、オリンピックと

コスチューム・ワールド~番外編:マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ~【後編】

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妥協なくこだわりを詰め込んだ衣装を自らデザインし、高い評価を得ているアメリカのアイスダンサー、マディソン・チョック選手。NHK杯出場のため来日していたチョック選手と、夫でアイスダンスのパートナーのエヴァン・ベイツ選手にお話を伺いました。これまで着用してきた衣装への想いをお聞きした前編に続き、後編となる本記事では、他のスケーターに衣装を作った際のエピソードや、ヴェラ・ウォン氏にウェディングドレスを作ってもらった際のお話、ベイツ選手のISUでの活動など、衣装の話題を中心に多岐にわたる事柄へのお2人の想いをお届けします。

着た人がどれだけ幸せな気持ちで滑れるか、それがすべて

―― 他のスケーターからは、「マディから衣装製作について教えてもらった」「この衣装はマディのアイディアなの」という話をよく聞きます。他のスケーターとはどのように衣装についてお話しされているのですか。

チョック 仲のいい人たちが私のところに意見を聞きに来てくれたことが始まりだったと思います。衣装について問題が発生して、改良したいというようなときに、私に助けを求めてくれたんです。ヘアスタイルでも、メイクでも、発想でも、小さな助言でも、何らかの形で誰かの役に立てるのがうれしい。私はどんなときも誰かのためにありたいと思っていますから。

―― 衣装そのものを作ってほしいと頼まれたこともあるのですか。

チョック 実際にオリヴィア・スマートから今季の衣装を頼まれましたよ。今年のフリーダンスのドレスは彼女が私に依頼してきてくれて、できたものなんです。オリヴィアが北京オリンピックで着ていた「マスク・オブ・ゾロ」の衣装も、私がデザインをして、マシュー(・カロン/カナダを拠点にする衣装デザイナー)が製作をしました。

―― 他のスケーターの衣装をデザインするのは、やはりご自身の衣装と比べて難しいものですか。

チョック 難しいと思います。自分ではない誰かが描くストーリーであり、ヴィジョンですからね。私は着る人たちを100%幸せにする衣装を作りたいといつも思っているのですが、滑る人が衣装を着たときにどう感じるかはとても大切なことなんです。着たときの感覚がプログラム自体の完成度、滑りの質、着ていてどれほど幸せな気持ちになれるか、それぞれの要素を高めるポイントになるとまで言えると思います。だから衣装は着心地がよくて、着た瞬間にそのキャラクターになりきれるものでなくてはいけない。着た人がどれだけ幸せな気持ちで滑れるか、それがすべてなんです。

―― プログラムについての話を聞いてから、衣装を作っていくのですか。

チョック そうです。着たい色はあるか、どんなスタイルの衣装だとやりやすいか、そんなことを尋ねます。でもオリヴィアに関しては、彼女のことをもともとよく知っていたし、そもそもとても美しい人であることも、これまで着てきたすべての衣装のことも知っていたので、彼女が私のところに来たときにはもう既にたくさんアイディアがあったんです。彼女はゴージャスな雰囲気の人だから、似合うデザインを考えるのは難しいことではなかったですし、彼女のためにこれはどうだろう、あれはどうだろうとデザインをどんどん考えていく作業は本当に楽しかった。とてもモチベーションの上がる仕事でしたし、オリヴィアが私に依頼してきてくれたことを誇らしく思っています。

衣装は素晴らしいパフォーマンスができる秘訣

―― 今年は結婚式も挙げられていましたが、ウェディングドレスもご自身でデザインされたのですか。

チョック いえ、私のウェディングドレスはヴェラ・ウォン(著名なウェディングドレスデザイナー)のデザインです。彼女はフィッティングにも一度来てくれて、ヴェラが仕事をしている姿をこの目で見られたのは本当に最高の経験でした。信じられないくらい才能にあふれていて、発想もすばらしかった。だから私もたくさん彼女から吸収できたものがあったし、本当にすばらしい女性だと思いました。

―― 吸収されたことというのは?

チョック 何かを尋ねたり、教わったりということではなく、やり取りのなかで彼女の考え方を知ることができました。彼女の思考がどう動いていくのか、どのくらいのスピード感で働いているのか、どうやってあんなに体に美しくフィットするシルエットが完成するのか……といったことです。ヴェラは、何をどんなふうにすれば美しいものを生み出せるのかという、私にはない知識を持っていましたし、判断はいつも正確で、なおかつとても魅力的でした。

ベイツ ぼくもあのドレスは本当に素晴らしい仕上がりだったと思います。ぼくはいつも自分の人生の最も幸福な瞬間として、あの結婚式を思い浮かべますが、あのドレスがさらに特別なものにしてくれたと感じています。素敵なものを着ていると、魔法がかかったような気分になるのは氷の上でも結婚式でもいっしょですね。じつは衣装は素晴らしいパフォーマンスができる秘訣の1つなのではないかなとも思ったりするんです。

―― チョックさんの衣装作りに影響を与えているアートというのはどんなものがありますか。

チョック ハイブランドの作品はいつもチェックしていますね。衣装をデザインするとき、ランウェイに登場できるくらいのレベルで、なおかつ自分の心をときめかせてくれるものにしたいなと思っているんです。ストーンは氷に反射させてキラキラさせるにはすばらしいもので、事実、今季の私たちのフリーダンスの衣装にもたくさんのストーンが使われていますが、基本的に私はドレスの形が映えるようなシンプルな衣装のほうが好きです。

―― 衣装をつくるうえで特に好きな素材や色はありますか。

チョック 生地はできるだけ、伸縮性があって機能的なもの。めぐりめぐって、結局はそれが最高なんだといま思っています。私たちはアスリートとしてパワフルなパフォーマンスをするので、どんな動きや踊りも自由にできる衣装にしたい。私たちの滑るままいっしょに動いてくれる生地というのが第一優先ですね。

―― チョックさんがデザインしたドレスを製作するのは、いつもマシュー・カロンさん(WFS101号にインタビューを掲載)ですね。

チョック 彼は本当にすばらしい人です。マシューと彼のチームはどんなときだって最高。いままで、私のたくさんのアイディアを実現してくれて、その妥協のない仕事ぶりと、たくさんのスケーターに美しい衣装を届けているその情熱に敬意しかありません。

>>次ページ:デザイナーとしてのこれからの夢、そしてオリンピック

プロフィール
マディソン・チョックは1992年7月2日、カリフォルニア州出身。エヴァン・ベイツは1989年2月23日、ミシガン州出身。2011年にチームを結成し、これまでオリンピックへの3度の出場経験を持つ。2023年に世界選手権で初優勝し、2024年、2025年も王座を守って3連覇を達成。チョックは衣装デザイナーとしても高い評価を受けており、ISUアワードでは、自身のためにデザインした衣装とオリヴィア・スマートにデザインした衣装で合わせて3度、最優秀衣装賞を受賞している。
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