小さなスケッチブックから始まっていく衣装デザイン
―― チョックさんのデザインした衣装は、ISUアワードにも2度(インタビュー時点)輝いていますよね。
チョック 受賞したときはただただとても……これ以上ないくらい誇らしかったです。フィギュアスケートの衣装が好きで、私たちが夢中になって作ったものに、理解を示してくれて、共鳴し合える人がいるなんて本当に素敵なことですよね。
―― 受賞した衣装の1つが、2021-2022シーズンのFDのコスチュームですね。エイリアンと宇宙飛行士のストーリーで、チョックさんのドレスはエイリアンを表現していました。

チョック この衣装も、いつもと同じようにインスピレーション源となるものを集めるところから始めました。Pinterestを見たり、自然やプログラムのテーマに合うデザインの服を見たり。そして、そんなたくさんのインスピレーションを集結させてデザインを描いていきます。海の生き物や昆虫の外骨格のイメージから、このエイリアンの衣装は生まれたんです。パイピングがたくさん施されたメッシュを使って、骨を再現しました。宇宙人は人間とは違う体つきをしていると思うし、肌も違う色でおおわれていると思う。エヴァンは宇宙にいる宇宙飛行士の設定でしたが、やはりそこでこだわったのは「本物らしさ」です。
ベイツ ぼくは手袋をはめたのですが、あの手袋は、本当に野球のグローブみたいだった。グローブを両手に着けて滑るのはあのときが初めてで、その状態でリフトもしなくてはいけないので、まさに新しい挑戦でした。グローブは衣装によくマッチしていたと思うし、2人の衣装も本当に統一感があって、衣装がすばらしかったからこそプログラムの完成度を少しでも高めようと挑戦し続けられました。
―― 2023-2024 RD「クイーン・メドレー」の黄色の衣装もISUアワードにノミネートされていました。

チョック マシュー・カロンが製作してくれて、私たちはフレディ・マーキュリーの黄色いジャケットについてたくさん話し合いました。あのイエロー・ジャケットは私も大好きだったから、あれを出発点にしようというのは割とすぐに決まったことです。マシューはすんなりあのジャケットをドレスのデザインに落とし込んでくれました。どんなときも大好きな一着です。
―― 2023-2024 FD「The Dark Side of the Moon」の時計が溶けたようなドレスもユニークです。

チョック サルバドール・ダリの絵画「記憶の固執」からインスピレーションを得て作ったんです。私は時間の象徴として時計そのものをまとってみました。エヴァンのコスチュームには白いラインが入っていて、ライン自体は人生そのものを、ストーンは人生のなかで築いてきた思い出を表しています。反対側の黒いベルベットのラインが表現しているのは死後の世界。だから、あの衣装は「時間」というものを包括的に表しているんです。その発想が大きな軸でした。
―― 2022-2023 RD「Let’s Dance」の星をあしらったデザインの衣装はとてもポップで素敵ですね。

チョック ありがとう。デヴィッド・ボウイの衣装を参考にして製作しました。彼はいつもこういうエキセントリックで、カラフルな服を着ていましたよね。プログラムの音楽を聴いたとき、ボウイの「ジギー・スターダスト」の息吹を感じるようなデザインの衣装を作りたいと思ったんです。「スターズ」のときの衣装や、顔のペイント、そういうものがインスピレーション源になりましたね。ラテンの衣装だったので、ボウイがボールルームダンスのラテンを踊ったらどんな衣装を着るかなと想像して、色や石の使い方を決めました。
―― 蛇を模した衣装で滑られていたこともあるなど、本当にこだわりを持って衣装を作られていますよね。
チョック あれは最初から蛇のデザインにしようと決め込んでいたわけではないですよ、私はいろんなデザインを考えるのをできるだけ楽しみたいので。ファッションというものが本当に好きですし、情熱を持っています。スケートを始めたとき、まだ小さな女の子だったときから、衣装作りにはいつも関わっていたんです。成長するにつれて、自分は氷上でどんなものを着たいかという意識が強くなってきて、自分で衣装をデザインするようになりました。そんななかでも、蛇の衣装はお気に入りの1つですね。衣装を作ることが大好きだし、エヴァンとこのスポーツができていることをとても幸せに思っているから、プログラム、衣装、その他すべてのことを「自分事」として捉えているんです。そういう意識が私たちのなかには染みついているんだと思います。
―― プログラムのなかで、衣装とはどんな役割を果たすものだと考えていらっしゃいますか。
チョック 衣装は、革新的で創造性にあふれたテーマ、音楽、振付を選んで1つにしたあとの、最後の仕上げのようなものです。それでいて、見ている人に私たちのプログラムのコンセプトをいち早く伝わるものでもあると思います。演技を始める前から、音楽が鳴る前から、リンクに足を踏み入れた瞬間にはもう目に入るものですから。
―― 衣装のデザインを考え始めるのは、具体的にどの段階になるのでしょうか。
チョック 振付が完成したときです。物語をアイスダンスの振付に変換してみて、初めて衣装の方向性がはっきりと浮かび上がります。その段階だと、私も発想が生まれやすくなるし、衣装の見通しを立てやすくなるので、そのくらいの時期からスケッチを始めることが多いですね。そのデザインブックには私が描いたデザインが全部納められているのですが、この小さなスケッチブックから始まって、衣装は完成していくんです。デザインが決定するまでは、本当にたくさんスケッチを描くんですよ。そしてそこからどんどん取捨選択していきます。エヴァンに見せて、彼の意見を聞いて、フィードバックしてもらうんです。
次回の記事では、他のスケーターの衣装を手掛けたエピソードや、衣装製作をするうえで大切にしていること、お2人がオリンピックをどう見据えているかなど、インタビューの後半をお届けします。