2025年3月29日
日本のエースとして、4度目の世界選手権へ

INTERVIEW鍵山優真「まず試合自体を楽しんで、自分のやるべきことに集中したい」

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氷上で挑戦し続け、観客に希望を届けるアスリートと、彼らを支える人々を紹介する「Hope & Challenge」。今シーズンの最終回に登場するのは、日本のエース、鍵山優真選手(オリエンタルバイオ/中京大学)です。北京オリンピック個人・団体銀メダリストであり、過去3回出場したすべての世界選手権で表彰台に立ってきた21歳。2024年全日本選手権で初優勝を果たし、シーズン前半を最高の形で締めくくると、2025年は1月にワールドユニバーシティゲームズ(イタリア・トリノ)、2月にアジア大会(中国・ハルビン)に出場。そして3月26日から、いよいよシーズンのクライマックス、世界選手権(アメリカ・ボストン)が始まります。今回の世界選手権は、2026ミラノ・コルティナダンペッツォ・オリンピックの代表枠獲得がかかる重要な大会です。3月中旬、カナダの事前合宿への出発を控えた鍵山優真選手に、ボストン大会への意気込みを伺いました。

SPのステップはアップテンポな曲調で、より力強く表現

―― 世界選手権に向けて、ショートプログラム「The Sound of Silence」のステップシークエンスの音楽を変えるそうですが、その決断はいつ、どのように話し合われたのでしょうか。

「アジア大会の前くらいに、(振付師の)ローリー(・ニコル)から、ステップの後半から、ギターの音やドラムの音を足してみない? と提案されました。アジア大会はすぐ迫っていたので、音源提出ができなかったんですけど、ワールドでは新しい音源で滑ります。以前より前半と後半の強弱のメリハリがすごくついて、後半の盛り上がりがより強調されていると思うので、感情をしっかり乗せられ、より現代っぽくなっていると思います」

―― 今シーズンのショートプログラムは、すでにマスターピースの趣が感じられます。完成に近づいていると思っていたところで、音楽を一部変更するというのは、さらにいいプログラムにするための決断なのだと思いましたが、いかがでしょうか。

「今シーズンのショートは、すごくいい演技ができています。ただ自分のなかでほぼ完ぺきといえるようなジャンプの出来でも、自己ベストを超えられていないというのもありました。今シーズンの採点傾向や流行りを見てみると、けっこうアップテンポなものやロックが多いので、音楽を力強くしてみようとなったんです。後半、楽器を増やすことで、だいぶ印象も変わり、より力強くステップが表現できます。振付は変わっていないのですが、印象はだいぶ変わっていると思います」

―― 演技構成点(PCS)が楽しみですね。

ルッツに挑んだからこその4回転の構成

―― 世界選手権では、フリーの4回転は、ルッツは入れず、フリップとサルコウ、トウループの3種類4本の構成を予定していると明らかにしています。年明け2戦で4回転ルッツに挑戦したうえでの決断だと思いますが、4回転ルッツ挑戦は、自分の限界を超えて挑戦していく出来事だったのではないでしょうか。この経験が世界選手権に向けて、自分にどんなプラスになっていると感じていますか。

「ユニバーシティゲームズ、アジア大会は、何もかかっていないので、新しいことに挑戦するいい機会だと思って、ルッツを入れたんです。結果的にはうまくいかずに終わってしまったんですけれども、でも挑戦することに意味があったと思っています。そうしたからこそ、世界選手権のフリーでルッツをやらないという選択肢が生まれたと思う。来シーズンに向けて、ルッツをどこに入れるのかとかそういうところもアジア大会などで、しっかり確認できて、自分にとって本当にプラスにとらえています」

―― 鍵山選手は、すごくていねいに、着実に考え抜いたうえで演技に臨むイメージがあります。失うものは何もないという状況下で挑戦をするときは、「楽しいな」という気持ちなのか、やはり「ここがいいから、ここでやろう」と計画的に考えて実施しているのか、どんな感じでしょうか。

「ルッツ以外のほかの部分がしっかりしていないと、やはり4回転は入れられないと思うので、4回転ルッツは入れられるとなったのも、全日本選手権でいい演技ができたことがありました。なので、そこは計画的に、ユニバで入れようと思っていましたし、その挑戦も自分自身は失敗でも成功でも楽しみ。自分はやってよかったなというふうに思います」

―― 大会中、佐藤駿選手とは同室だったそうですが、どんな日々でしたか。

「ユニバもアジア大会も同じ部屋だったんですけど、お互い自分の時間をしっかりと作って過ごしていたと思いますし、本当に久しぶりの同部屋だったので、すごく楽しかったです」

初出場の佐藤駿選手、壷井達也選手と狙う3枠

―― 3月の世界選手権は、2026ミラノ・コルティナ・オリンピックの3枠がかかった大会でもありますが、鍵山選手は経験者として、初出場の佐藤駿選手や壷井達也選手にどんな働きかけや声かけをしようと思っていますか。

「とくにアドバイスはあまりないし、自分はあまりそういう立場ではないと思うのですが、自分自身が初めて世界選手権に出たときは、緊張するというより楽しみながらやろうと思えたので、そういう感じでみんなで試合を楽しめるような雰囲気を作っていけたらいいなと思いますし、少しでもリラックスして自分のベストパフォーマンスが出せるようにしたい。みんなグランプリや全日本、それ以外の試合でしっかり経験もしていますし、いろんな課題や良い点も吸収して、いま世界選手権に向けて頑張っていると思うので、自分のやれるべきことを最大限できたら、3枠も全然問題ないのかなっていうふうに思っています」

―― 鍵山選手自身は、初めての世界選手権やオリンピックなど、プレッシャーの大きい大会で、誰かから言われたことですごく心に残った、あるいは、その後の支えになったという言葉で思い出すものはありますか。

「うーん、どうだろう。世界選手権もオリンピックも周りのメンバーがけっこう年上の先輩で、(宇野)昌磨くんとか(坂本)花織ちゃんとか、みんなすごく明るく接してくれて、とても頼もしかったというか、このメンバーがいるから、安心していられるみたいな雰囲気をすごく感じました。だからどの舞台も楽しんでやることができたので、自分ももう世界選手権は4回目ですし、もちろん3枠がかかっていて、緊張する部分もあると思うんですけれども、まずは試合自体を楽しんで、自分のやるべきことに集中できるようにしたい。達っちゃん(壷井達也)と(佐藤)駿は、すごく緊張するのかなって思うんですけど、公式練習からしっかりと声をかけたり、楽しい雰囲気を作っていけるようがんばりたいです」

プロフィール
鍵山優真(かぎやま・ゆうま) 2003年5月5日、横浜生まれ。オリエンタルバイオ/中京大学所属。5歳より父・鍵山正和のもとでスケートを始める。2022年北京オリンピック個人・団体銀メダル。2021年、2022年、2024年世界選手権2位。2024年四大陸選手権優勝。2022-2023シーズンは左足首の怪我に見舞われたが、2023-2024シーズンに完全復活。ソチ・オリンピック銅メダルのイタリアの至宝カロリーナ・コストナーがコーチ陣に加わり、スケーティングや表現面に磨きをかけている。今シーズンは、グランプリシリーズのNHK杯とフィンランド杯で優勝、グランプリファイナル2位。全日本選手権では初優勝を飾る。2025年1月のワールドユニバーシティゲームズ(イタリア・トリノ)で優勝、2月のアジア大会(中国・ハルビン)で銀メダル。3月には、世界選手権(アメリカ・ボストン)に出場する。
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