2025年3月9日
モントリオールでアイスダンスの田中梓沙&西山真瑚組を指導するカリスマ

INTERVIEW ロマン・アグノエル「2人には優雅さという“アイデンティティ”がある」

spot_img
- AD -

いい音楽という、彼らのための乗り物を選んであげたい

―― アグノエルさんが振付けた今シーズンのフリーダンス「エリーゼのために」は、とても素敵で、かつほかにはない雰囲気の作品ですね。

「私もとても気に入っています。音楽も私が見つけて、彼らに提案したんですよ。しょっちゅう耳にする曲ではないけれども、彼らの、まだ経験の浅いチームではあまり見かけないような洗練された雰囲気と、氷上での繊細な動きを映すことができる曲だと思います。アイスダンスのチームにとっては、毎年異なる側面を見せることが重要です。同じような曲を滑り続けるわけにはいかない。2人のために、来シーズンはまた新しい感じの曲を見つけるつもりです。滑りやすいだけでなく、彼らを綺麗に見せてくれて、もっと高くまで、強くしてくれるような曲を選びたい」

田中梓沙&西山真瑚のフリーダンス「エリーゼのために」(2025年四大陸選手権)©Nobuaki Tanaka/Shutterz

―― たくさんのチームを担当しているのに、どのチームにもそれぞれに違う、それぞれに合った曲でプログラムを製作されていますよね。

「もちろん曲を選ぶのは大変です。ただ同時に、音楽は音楽でしかないんですよ。大事なのは、その音楽をいかに滑りこなすか。選手をチャンピオンにしてくれるのは音楽ではありません。そのチームの、その時点での成長段階に合った音楽であるべきなんです。たとえば梓沙と真瑚のために選んだ音楽は、次の年のほかのチームにとってもいい音楽だというわけではない。プログラム作りというのは、つねにそれまで何を滑ってきたか、これから何を滑っていくかという視点に立ち、現時点でどんな成長をしているのかを把握することなんです。この成長段階にあるこのカップルのために、正しい音楽を選ぶぞ、という姿勢ですね。かつまた、イノベーティブでありたいし、同じことのリピートはしたくない。私はこれまでに数限りないプログラムを振付けてきて、ときには初めてモントリオールにやってきたチームが、『この曲で滑りたいんです、すごくオリジナルだと思う』と聴かせてくれた曲が、私にとっては振付けるのがもう5回目なんていうこともある。時が経つにつれて大変になっていっています。だから、私はスケーターが提案してくれるのがありがたいんです。彼らの提案を通して、よく知っている曲に新たな要素を発見することもできる。大事なのはどんなヴィジョンをもつかだから。振付けるときはいつも違いますよ。たとえ同じ曲であってもね」

―― 西山選手がシングルからアイスダンスに転向した最初のシーズンのプログラムも、アグノエルさんの振付でした。

「真瑚はシングルからアイスダンスに転向して、ここまで進歩してきました。ただ、転向というのはやはり大変なことです。たとえばガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロンは、7歳から一緒に滑っていた。小さいころからアイスダンスを学ぶと、パートナーとの結びつきを感じることや、リフトをすること、それから相手と近い距離で滑ることが自然と覚えられる。近接スケーティングは本来とても難しくて、スピードが出ないのが普通です。梓沙と真瑚は、いかにお互いに寄り添いながら滑るかを理解していっているところで、今シーズンのその部分の進歩は目覚ましかったですよ。2人にはもうちゃんと、優雅さという“アイデンティティ”がある。あとは私たちが梓沙と真瑚のために、いい音楽という彼らのための乗り物を選んであげるだけだと思います」

豊かなアイディアとたしかな技術指導で、パパダキス&シゼロンら優れたアイスダンサーを育ててきたロマン・アグノエル ©Nobuaki Tanaka/Shutterz

―― 四大陸選手権が2人にとって今シーズン最後の試合になりますが、今後の方針についてはいつごろ決めていく感触でしょうか。

「今夜(2月22日)でシーズンが終わるので、明日から考えていきます。彼らの成果を確認し、ジャッジからもフィードバックをもらって、来シーズンの計画を練っていくことになりますね。2人にはエレガンスがあり、結びつきがあります。ダンスの感覚もいい。いまはスピードが足りないので、今後はパワーをつけて、スピードを上げ、精度を上げていくことが必要です。スケーティングスキルを磨く練習を繰り返していくことになるでしょう。アイスダンスは努力を隠して優雅に見せる競技ですが、それでもやはりスポーツであり、彼らはアスリートです。速く、強く、進化していかなくてはならない。リフトはとてもよくなってきましたよ。真瑚は上背があるわけではないけれど、アイスダンスのリフトというものは男性の筋力によって実施するのではない。男女で息を合わせることが肝要で、女性の力も同じくらい重要です。今後の課題としてさらに取り組んでいくことになるでしょう」


ジュニア時代から長年アイスダンスのプログラムを振付けてもらっている西山選手は、アグノエルコーチについて、こう語ります。「ひと言でいえば、天才的なコーチ。発想や教える技術がすごい。アイスダンスのコーチのなかで、いちばん信頼している先生です。本当に指導は厳しいんですが、それができれば上達することが体感できるんです。ロマン先生のいうことを信じてやっています」

“あずしん”は来シーズン、はたしてどんな音楽で踊るのでしょうか。いまから楽しみです。

プロフィール
アイスアカデミー・オブ・モントリオールのコーチ、コリオグラファー。1976年、フランスのアイスダンスの中心地リヨンに生まれる。妹マリアンヌと組んでアイスダンサーとして活動したのち、20代はじめに引退。ミュリエル・ザズーイのもとでコーチに転身する。2014年夏、教え子のパパダキス&シゼロンとともに、カナダ・モントリオールへ。マリ=フランス・デュブリュイユとパトリス・ローゾンのチームに参加。アイスアカデミー・オブ・モントリオールを拠点に、パパダキス&シゼロンを2018年平昌で銀、2022年北京で金のオリンピックメダルへと導いた。数多くのトップチームとともに、2023-2024シーズンから田中梓沙&西山真瑚組を指導している。
spot_img
- AD -

 関連バックナンバー

関連記事

- AD -
spot_img

最新記事

error: