―― 青木祐奈選手にも長年振付けていますね。また今回はSP後に棄権となってしまいましたが、三原舞依選手のSPも手がけました。
「祐奈とはたぶん5年近くになると思うけれど、とても思い出深い年月になっています。祐奈はすぐれたエッジワークの持ち主で、ぼくが難しすぎるんじゃないかと思った振付でも滑りこなすことができる。今年のタンゴにしても、それほど難しくないように見えるかもしれないけど、あれだけシンプルに、音楽とともに完成させるというのはとても難しい。今季は国際的に活躍し、多くの人たちに彼女のアートを届けることができて、とてもうれしく思っています。
舞依は思慮深く、高い技術があり、振付を一緒にやることが本当に楽しいスケーターです。怪我や体調不良と辛抱強く向き合ってきて、この全日本も彼女にとって難しいイベントになりました。いまはただ彼女の幸運を祈るばかりで、健康が回復するように前向きなエネルギーを送りたい。観客に与えるものがまだまだたくさんあるスケーターですから、1日も早い回復を祈っています」
―― 男子では、中田璃士選手がジュニアから出場して2位で表彰台に乗る活躍でした。SP「Aroul/Uccen」も原動力になりましたね。
「璃士には明らかに多くの可能性があります。才能だけでなく、ユニークで稀有な情熱をもっている。彼のチーム全体が素晴らしい仕事をしたと思いますし、璃士自身、難しい試合も経験し、そこから学んだことで、この全日本で力強いパフォーマンスができたのだと思います。もっと高いレベルに到達する可能性がある選手ですから、今後が楽しみです」
どれだけ大輔を尊敬しているかを示すことができた
―― ミーシャさんは現役時代、情熱的なエンターテイナーとして知られたスケーターでしたが、振付師の道に進もうと考えるようになったのはいつごろからなんですか。
「小さいころからです。父がコーチ、母が振付師で、祖父も画家で俳優という、芸術的なことがたくさんある家庭で育ったから。中国代表チームにいた父はシングルとアイスダンスを両方教えてくれたし、ロシア代表チームにいた母が多くのスケーターに振付ける様子も見ていました。自分のプログラムの一部を少しずつ作り始めて、18歳のときに「自分でゼロからプログラムを作ってごらん」と両親に言われました。よく「誰が振付けたのか」って聞かれて、自分だと言っても信じてもらえないことが多かった。(笑)ハリウッドのダンススタジオや、中国のダンスアカデミー、ロシアのバレエアカデミーに通って、振付の勉強を続けてきました。するといろんなスケーターが連絡してきて、ぼくの振付で滑れないかと声をかけてくれるようになりました。もう15年になります」
―― 何ヵ国語話せるんですか?
「3ヵ国語。英語、ロシア語、中国語です。いま韓国語も勉強中です」
―― 個々の動きの質やパーソナリティをつかむことに秀でておられますよね。日本のアイスショーで、高橋大輔さんトリビュートのプログラムを滑ったこともありました。
「あれはこれまででいちばん難しかった。2ヵ月くらい毎日練習したけど、テンポ、スピード、変化など、とても大変でした。もちろん小さいころから彼の滑りを見ていたけど、再現し始めると本当に大変。ほかのプログラムも用意していったんですが、幸いトリビュートが好評で、ほぼ毎日滑った記憶があります。でもプレッシャーでしたよ! 史上最高のスケーターのプログラムを滑るんだから、細心の注意とエネルギーが必要でした。毎日緊張して、体が痛くって。(笑)彼の本拠地だった大阪公演ではとくに緊張した覚えがあります。光栄な経験で、ぼくがどれだけ大輔を尊敬しているかを、敬意をもって示すことができました。素晴らしい歴史になったけど、でも、もうできません!(笑)」
―― 高橋さんのシングルとしての現役最後のSP「The Phoenix(フェニックス)」の振付を、シェリル・ムラカミさんと共同で手がけました。ルールに沿った振付に仕上げるのはミーシャさんの仕事だったんですよね。
「ぼくにとっての長年のアイドルである大輔と、尊敬するアーティストであるシェリルと一緒に仕事をするのはとても興奮しました。パフォーマンスとルールの中間点を見つけるのに少し時間はかかったけど、大輔のやりたいことを実現する方法を見つけることができた。挑戦的なプログラムだったけど、芸術の域に達するようなものになったと思っています」
―― ミーシャさん自身、フランク・キャロル(アメリカ)やアレクセイ・ミーシン(ロシア)など多くの名コーチから学びつつ、現役の最後までお父様がメインコーチでした。今回の全日本でも鍵山優真選手、中田璃士選手が父子スケーターですが、親子でコーチと選手という関係には、どんなよさがあると思いますか。
「表面だけでなく深いところまで学ぶことができるのは強みでしょうね。なかには切り替えが上手くて家には持ちこまない親もいるけれど、やっぱり家でもスケートの話になります。夕食を食べながら『あのトウの突き方はどうかと思う、着氷にももっと気をつけて』みたいにね。たとえリンクと家でコーチと親の立場を切り分けている場合でも、やはりアドバンテージはあると思う。より長い時間をコーチと共有できるわけだから。もちろん大変な面もあって、距離が近いだけに親子ともにプレッシャーを感じやすいし、家族に対する責任を感じてしまう局面もあります。どうやってそのバランスを見つけるかは個々のチームによりますが、優真、璃士、それにイリア・マリニンを見ていると、彼らはいいバランスを見つけられているんだろうなと思う。彼らは幸運でもあるけど、同時にいろんなことと戦ってもいる。経験者として、彼ら父子スケーターたちをリスペクトしているし、気持ちがよくわかるんですよ」
―― 興味深いお話をありがとうございました。今後のご活躍も楽しみにしています。