10月2~4日に田中貴金属アイスアリーナで行われた東京選手権に初出場した片伊勢武アミン選手。すらりとした手脚を生かした気品高い滑りで多くのスケートファンから愛される22歳です。東京選手権では、平昌オリンピック4位の宮原知子さんが振付を手がけたSP「月の光」を昨季から磨きをかけて披露し、フリーはバンクーバー・オリンピック代表の織田信成さんが振付けた「Last Emperor」を初披露しました。
ジュニア時代から関西を拠点に活躍し、2022年にはジュニアグランプリファイナルに進出、2023-2024シーズンにシニアへ上がってからもグランプリシリーズや全日本選手権に出場して、大学4年生だった昨季の全日本選手権では9位。今春、大学卒業と同時に上京し、新社会人としての生活をスタートさせるとともに、アスリートとしても新たな環境でシーズンに臨んでいます。会社員として働きながら競技を続ける道を選んだ思いと、新たなスタートを切るまでの道のりを聞きました。
「こういう道もあると示したい。諦めず、くじけずにがんばります」
-- 初めての東京選手権はいかがでしたか。
片伊勢 昨日、今日と演技の内容は散々なものになってしまったんですけど、ここからまた上げていけばいいと信じて、全日本に向けてがんばるのみかなと思います。
-- 改めて、今季、関西から東京へ移られたいきさつを教えていただけますか。
片伊勢 (今年3月の)大学卒業のタイミングで引退することもすごく考えていて、選択肢には入っていました。本当にギリギリ、年末ぐらいまで悩んでいたんですけれども、全日本の結果と周りの方の助言、自分の思いを総合して、まだもう少しできるんじゃないか、がんばってみたいという思いがあって続けることを決意しました。その環境を探したときに、岡島(功治)先生に習ってみたいというのと、東京に行けば就職先も選択肢が広がるんじゃないかなというのもあり、バタバタと就職先と住む場所と拠点が決まったような感じです。1月末から2月ぐらいにスムーズにパッと決まって、なんとか4月1日までに環境を整えることができました。
-- スッと決まるのも縁を感じますね。
片伊勢 難しいのかなとも思っていたので、それは本当によかったと思います。
-- 現役続行を悩んでいる時期も練習はしていましたか。
片伊勢 インカレ(1月の日本学生氷上競技選手権)が終わって試合がなかったので、ガツガツやってはいなかったんですが、ある程度氷に乗ることは続けていました。
-- 実際に東京生活が始まっていかがですか。
片伊勢 半年ぐらい経ったんですけど、拠点も変わって、学生から社会人に身分も変わって、住む場所も変わって、全部が新しくなったので、なかなか慣れない部分も多いですし、難しいところも多いんですけれども、きっとここに来たのもなにかご縁があると信じて、とりあえず今シーズン、全日本まではがんばって登りつめるのみかなと思います。
-- 現役を続ける際に周囲の声やご自身の思いなど、いくつか決め手があったとのことですが、なかでもいちばんの原動力になったのはどんなことでしたか。
片伊勢 いままでいいときも悪いときもたくさんあったんですけど、不完全燃焼な感じが多かったというか――「きっとここでやめたら後悔するだろうな」と自分でもわかっていました。後悔しても、また新しいことを見つけて人生を歩んでいくのもいいのかなと思ったんですけど、やっぱりスケートは自分にとってすごく大きなものだったので、後悔なく、自分のなかでけじめをつけて終わりたいなと。その思いがいちばん大きかったですね。

-- 差し支えない範囲で、東京ではどういう生活を送っているのか教えていただけますか。
片伊勢 仕事は平日日中の時間に普通に会社員として働いていまして、その前後、朝もしくは夜に神宮のリンクで練習しているという感じですね。
-- すべてが一気に新しくなって、新社会人は変化がストレスになることも多いと思うのですが、ワクワクした気持ちもあるのではないかと思います。心のなかはどんな感じでしょうか。
片伊勢 多少の期待やワクワクをこめてもちろんこっちに来ましたけど、現実は難しい部分も本当に多いです。でも、なんて言うのかな。いまこうやってお仕事をしながら、スケートでも選手を続けられて、住む場所もあって、というのはちゃんと自分を褒めてあげて、(周囲にも)感謝しながら精いっぱいやるべきだなと思う。その芯みたいなものは曲げずにこれからもやりたいなと思います。
-- 多くはないですが、これまでも社会人として会社で働きながら選手権クラスの大会に出られる選手の方もいらっしゃいました。どなたかに相談はされましたか。
片伊勢 ちょうど年末の全日本とインカレは大学の山田(耕新/元企業所属の会社員選手として全日本選手権に出場)監督に帯同していただいていて、ちょこちょこと相談はしていました。
-- 山田監督からどんなお話が?
片伊勢 やっぱりなかなか前例もないし、理解があるかというと、正直ないとは思う世界で、すごくご苦労されたというのはおっしゃっていました。それでも全日本に出るという前例を作ってくれた方で、その人とたまたま大学の監督と選手という立場で帯同してもらえて、これもなにかご縁なのかなと感じた。山田監督の存在もすごく大きかったですね。
-- いろんな巡り合わせに導かれている感じですね。
片伊勢 そうですね。
-- そんななかで迎える今シーズンは、どんな目標を持って臨みますか。
片伊勢 全日本の段階でやめることも考えましたし、それでもよかったと思うんですけど、でも、それでも続けるんだったら、これまで通りだと自分のなかで納得はできない。やる意味があるのかなと考えてしまうので、やるからには昨年の自分を超えられるように、さらに上を目指していけるようにというのがいちばんの目標です。
-- 会社員生活だけでも半年では慣れるのが難しいと思います。
片伊勢 こっちに来てから体調を崩すことが増えてしまって、今回もちょうどこの試合前に被ってしまって、あまり練習ができずに昨日、今日という感じで。全日本で同じことがあってはいけないので、そういった面も含めて、改善しながら進んでいかないとなとは日々思います。
-- 東京に移りたいとお話ししたとき岡島先生はなんと?
片伊勢 とくに細かいことはなく、「OK、いいよ」という感じだったので、それがすごく救われました。寛大な心で受け止めてくれて、練習する場所を提供してくれたのは誰でもなく岡島先生なので感謝の思いでいっぱいです。
-- まさに冒険ですね。これからどんなストーリーを描かれるのか楽しみに、応援しています。
片伊勢 あまり前例はないと思うんですが、こういう道もあるんだっていうのは、自分が進んでいくなかで示していけたらなとも思うので、諦めずに、くじけずに、ちゃんとがんばりたいなと思います。
-- ありがとうございました。
(2026年10月4日、東京選手権男子フリー後に取材)
片伊勢選手は12月の全日本選手権出場を目指して、10月29日から前橋で行われる東日本選手権に出場します。

