グランプリシリーズが始まり、ミラノ・コルティナ・オリンピックを目指すシーズンが本格的に動き始めました。そこで、オリンピックをホームで迎えるイタリアチームに注目するインタビュー特集をスタート! イタリアチームから、WFS編集部が出会ったスケーターを1人(1チーム)ずつピックアップして紹介していきます。
第1回は、イタリアきってのスーパージャンパーとして、ヨーロッパ選手権のメダル獲得やイタリア男子初のGP優勝を達成してきたダニエル・グラッスル選手です。1シーズンの休養を経て、3年ぶりにイタリア王者となったグラッスル選手に、競技のことから、オリンピックのこと、そしてイタリアチームについての楽しい1問1答まで、盛りだくさんで聞いてきました。グラッスル選手は、今週末のカップ・オブ・チャイナからグランプリシリーズに登場します!
「できることをやる」ことが自分を成長させる
―― 2024-2025シーズンは、2季ぶりにフルシーズンを戦っていかがでしたか。
グラッスル 全体としては、とくにスタートがとてもうまくいったのでハッピーです。大事な大会2つ(ヨーロッパ選手権、世界選手権)で少し予定通りにはできない部分もありましたが、疲れもあるなかで最後までよく試合をこなせたと思います。モチベーションももらえたし、「いまの自分にできることをやる」ことこそが、どんなときも自分をもっと成長させてくれるんだとわかりました。しばらく試合に出ていなかったところから復帰するのはやっぱり簡単ではなかったけど、自分に対する安心感や信頼を大きくすることができて、オリンピックシーズンに向けてやる気もかなり湧いてきました。
―― シーズンのハイライトと、チャレンジングだった試合というと?
グラッスル ベストパフォーマンスは間違いなくワールドユニバーシティゲームズです。2つの演技を完璧に滑りきることができたし、お客さんも何もかもが素晴らしかった。逆に大変だったのは、世界選手権。オリンピックの出場枠が懸かっていたからプレッシャーがすごすぎて何もできない感じでした。世界選手権もあって、長く重圧のかかるシーズンでしたが、イタリアにオリンピックの出場枠を2枠持って帰ることができてよかったと思います。

―― 世界選手権では選手みんなが同じプレッシャーを抱えているようでした。
グラッスル 本当にそうだったと思う。ぼくは、緊張したときでも、いつもなら絵を描いたり、色を塗ったりしていると落ち着けるんだけど、世界選手権ではプレッシャーが大きすぎて、それでは気持ちをコントロールすることができなかった。でも、学びの多い試合でした。大会でいい演技をするということについてすごく考えさせられたし、自分の背中を押してくれるような経験になりました。
―― 2023-2024シーズン、試合に出ていない間も練習は続けていましたか。
グラッスル いや、10ヵ月のあいだは氷を離れて休んでいました。練習を再開したのは2024年の7月で、10月に復帰戦を迎えました。この3ヵ月は大変だった。
―― 試合に戻るにあたって、とくに大変だったのはどんなところでしたか。
グラッスル 7月にリンクに戻るまでは、プログラムを滑り切るスタミナが課題になると思っていて、スタミナがどうにかなれば、ジャンプはちゃんと戻ってくるだろうと思っていました。最終的には、プログラムについてはたくさん練習した甲斐あって、感触はよくなりましたね。いっぽうで、大変だったのは、氷上にもう一度立つためのメンタルでした。復帰したいなら、毎日練習で氷に立つためには、そこは越えるしかなかった。全然滑っていなかったところから復帰するわけですから、毎日氷に立たなければならず、2ヵ月くらいは、日がな一日氷上練習を3セッションこなすのも難しかった。でも、そうやって戦い抜いたことも、その成果がグランプリのメダルとなって出たことも、とてもうれしく思います。

―― 氷に乗るのが怖いと感じることも?
グラッスル そういうときは、とにかくぼくの人生にあるいいことを考えます。母のこと、愛犬のこと、友人や家族のこと。みんなのことを考えているときは、落ち着けて、安心できるんです。それに、たしかに氷に乗るのが怖いと感じることは何度もあったけど、実際に乗ってみると、もっと氷の上で自由でいたいから努力をしようとか、前向きでいようと思えるんです。今回の国別対抗戦も、他の試合みたいなストレスがなくて、試合そのものも、氷の上でも楽しめたし、次へ向けて自信を取り戻せる機会になったと思います。
―― 普段はご家族と一緒ですか?
グラッスル ぼくはトリノ、家族はメラーノに住んでいます。車で4時間くらいなので、ときどき実家へ家族に会いに行きますし、愛犬の“こおり”をトリノに連れてくることもあります。
―― 2024-2025シーズンは、イリア・マリニン選手が全6種類の4回転をフリーに入れたり、ミハイル・シャイドロフ選手が2本目に4回転を跳ぶコンビネーションを跳んだりと、新しいジャンプに挑戦する選手が増えてきました。
グラッスル そうですね。ぼくも、スペシャルジャンプを準備していますよ。もちろん足の状態と相談してですが、コンビネーション用のオイラー+4回転フリップで、トリプルアクセル+オイラー+4回転フリップを練習しています。頭をシングルアクセルにした場合にはもう跳べているので、完成させられるんじゃないかと思います。本当にちゃんと取り組んでプログラムに入れたいんだ。これができれば、ミハイル・シャイドロフが新しいコンビネーションを決めたときみたいに、観客もジャッジも楽しめるようなエンターテインメント性も、得点も上がるプログラムになるんじゃないかと思っています。
―― いちばん好きなジャンプはループ?
グラッスル イエス!
―― いちばん得意なのも?
グラッスル ……練習では。でも試合になると、得意じゃなくなることもあります。自分でも何が起きているかわからないんだけど、練習ではほぼ失敗しないのに、試合だとうまくリズムをつかめなくてミスをしてしまうことがあるんだよね。
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