日本で最も歴史のあるアイスショー「プリンスアイスワールド(PIW)」。今シーズンは、3年間にわたり上演してきたブロードウェイ・ミュージカルをテーマにした3部作の掉尾を飾るアイスショー「PIW THE MUSICAL ~The Best of BROADWAY~」を、12月に愛知公演、2026年1月に東京公演で披露することが予定されています。公演を前にした11月29日、PIWのアンバサダーを務める町田樹さん(國學院大學准教授・コリオグラファー)とのコラボレーションで、「大人スケーターのための氷上ワークショップ」が開催されました。町田さんとPIWチームメンバーのコーチ陣が氷上で繰り広げた熱心なレッスンをレポートします。
町田樹さん振付のプログラムにチャレンジ
ワークショップが行われたのは、プリンスアイスワールド東京公演の会場ともなる、東京・東伏見のダイドードリンコアイスアリーナ。日頃、大人スケーターとして各地のリンクで滑っている参加者約40名が参加し、町田さんをはじめ、PIWチームの浅見琴葉さん、小平渓介さん、松村成さんが講師を務めた。
まず、東伏見でアイスショーや試合を観覧したことがある人にはおなじみのリンク前の広場で、町田さんがウォームアップを実演指導。紅葉も色づいた晩秋の空の下、いくつかのエクササイズを実際にやってみせる町田さんのしなやかな動きに見入りながら、レッスンウェア姿の参加者も練習前に体をほぐした。呼吸法など、実際に対面で学ぶワークショップだからこそ理解しやすいような内容も。「ぼく自身が長い時間をかけて作り上げたメニューをお伝えしました。やってみたなかから自分に合うものを取捨選択して取り入れてみてください」とアドバイスした。
町田樹さん、PIWメンバーと氷上レッスン
ウォームアップのあとは屋内のリンクに移動し、氷上でのレッスンへ。今回の”教材”となったのは、町田さんが推進する「エチュードプロジェクト」より《朝露》だ。エチュードプロジェクトは、クレジットの明示などのいくつかの約束を守ることで、誰でも無許諾で町田さんが振付けたプログラムを滑ることができるというもの。音楽著作権などに抵触しないよう、音源の制作から町田さんが携わり、スケート普及のために提供している。≪朝露≫」はショパンの「24のプレリュードOp.28, No.7」を、ピアニストの福間洸太朗さんが演奏し、その音源で町田さんが実演する映像がYouTubeで公開されている。
この日は、まずスケーティングで身体を温めたあと、レベルごとに2つのグループに分かれ、ステップワークの練習を開始した。松村さんと浅見さんがバッククロスとスリーターンのできるグループ、小平さんはフォアクロスのできるグループを担当。町田さんは両グループを行ったり来たりしながら指導した。
「動画は皆さんご覧になりましたか? 振付を覚えてきましたか?」と語りかけ、「呼吸とカーブに身を委ねること、スケートとアームスを連動させることが今回のテーマです」と説明。「柔らかくエッジの傾斜を感じましょう」など、講師たちは的確なアドバイスを与えながら、ひょうたん滑走、スイングロール、フォアのクロススケーティングなど、びしびし指導を進めていく。日ごろから練習でよく滑っているのか、参加者の足元もなめらかだ。アウトサイドエッジとインサイドエッジの使い分けなど足元についての内容はもちろんのこと、上体や腕の使い方についての指導も多く、スケートが全身を連動させるものであること、また町田さんのスケートへの考え方も垣間見えてくる内容だ。
「指先と視線の動きを合わせてあげると、説得力のある表現になりますよ」「視線を送り届けたら、1回内側に引っ込める。ずっと遠くを見るんじゃなくて、呼吸のようにね、出したら引っ込める、出して内にしまう、を連続させると、爽やかでいい動きができると思います」。イメージしやすい言葉を駆使した町田さんの解説でさらに理解が深まっていく。「空気をたくさん蓄えて、それを天井にふわっと捧げるような、送り届けるようなイメージで」と、ボキャブラリーはとても独創的で多彩だ。浅見さん、小平さん、松村さんが滑る表現からもそれぞれニュアンスの違いを見て取ることができ、同じプログラムを滑りながらも個性を出していくことの面白さ、豊かさが伝わってくる。
Tストップ、スイングロール、スリーターン……プログラムの進行に沿ってレッスンは進められ、段階を追って自然とレベルアップしていく振付自体に込められたコンセプト通り、次第に参加者の動きも大きく、綺麗になってくる。後半は音楽をかけながらの練習。「間違ってもいいので、気持ちを伝えていけばOKです」と勇気づける町田さん。いくつかのグループに分かれて、発表会形式で成果を披露したあとは、講師陣が模範演技を滑ってみせる。全身を連動させて優雅に滑るパフォーマンスに、参加者から拍手が送られた。
記念撮影のあと、町田さんは最後に、「みなさん、今日は長い時間ありがとうございました。また新しいエチュード作品を作っていきながら、こういうワークショップをやっていきたいと思いますので、今日は見学だった方々も見学と言わず、もっと多くの方がワークショップに参加できるようにしたいと思います」と挨拶。「脚と腕の表現は結びついているので、しっかりと連動させて、それが結局呼吸とも合っていく。その3つのバランスが取れたら、すごくエコで楽に優雅な滑りができていきます。怪我のないように、引き続きがんばってください。我々もパワーアップして戻ってこられるように努力していきます」と講評した。
浅見さんは「踊りのなかで、すべてがつながっているという流れを意識できたらと思いますし、それが難しくても、目線をしっかりと気にすることができるといいと思います。そうできるくらいみなさんスケートの技術が上手でした」と参加者を称賛。松村さんは「みなさんお上手でびっくりでした。最初にお見せしたウォーミングアップには、基礎中の基礎が含まれています。基礎が正しくなってくると、体の使い方も自然と動いていきます。基礎練習を大事にしていただき、(エッジに)乗せることを大事にしていただけたら、振付にもつながっていきます。楽しんで滑っていただけたら」とアドバイス。小平さんは「初級のみなさまを担当させていただきましたが、みなさんすごくキャッチする力がよくて、どんどん吸収して、元気がよくなっていってくださいました。足元がしっかりすると、表現がしやすく、思いを込めてできるようになっていきます。振付はみなさんお上手でした。自信をもって、これからもこういう表現ができるんだということを考えながら、がんばってください」と話した。
町田さんがプリンスアイスワールドの愛知公演と東京公演をアピールして、ワークショップは終了。「観る楽しみ」に加えて「滑る楽しみ」を、楽しく、無理なく、そして正しく伝えるイベントとなっていた。










