2025年3月12日
「東和薬品presents 羽生結弦 notte stellata2025」で10年ぶりの再会

羽生結弦×野村萬斎、東北の地から送る鎮魂と再生の物語

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野村萬斎「羽生さんは天地人を司っている」

―― 初めてアイスショーに参加されていかがでしたか。
萬斎 大きな会場で、みなさんの熱気と活気が感じられましたね。生きている人間がこれだけ集まるとものすごく盛り上がるという、なにか、ここ(会場のセキスイハイムスーパーアリーナ)が(震災時には)安置所であったということと、でも我々はそういういろいろなものを、一種の遺産というか、いい意味でも悪い意味でもいろんなことがあると思いますけれども、そういうものを受け止めながら自分たちは生きているということを共有できたのは、素晴らしい催しだなと思いました。

―― 「MANSAIボレロ」をこの場所で演じられましたが、どのような思いで?
萬斎 ちょっと感極まりそうになりました、最初ね。始まるときに一瞬、霊感ではないですけれども、みなさんの魂を感じるというか、なにかそういう思いが私に乗りかかってくるというか、そういうものをなんとなく背負うのも能狂言に携わる者の使命のような気もして。改めて、そういう場所と、自分の使命みたいなものを再認識させていただきました。

―― 「SEIMEI」を羽生さんと2人で演じられていかがでしたか。
萬斎 作っていく段階で、本当に羽生さんが「陰陽師」好きなんだなと思いましたね。ちょっとオタクなのかもしれないですけれども、ぼくより詳しくて。(笑)ぼくが忘れていることも覚えていらっしゃるぐらい、逆に「こうしたほうがもっと晴明らしい」と。ぼくはもう忘れているところをちゃんと覚えていらっしゃるようでした。でも、冗談はおいといてね、彼の金字塔とも言うべきゴールドメダルを獲った曲ですから、私もその大切な曲に関わらせていただいたのを大変光栄に思っております。そういう意味で、構成がどんなふうにみなさんに映ったのかは興味がありますけれども、五芒星をスケートリンクに描くということも1つの、そこにあるものに対する想いだったと思いますし。そういう意味で3.11に繋がる曲にもなったかなと。(アイスショー)全体にプログラムがそういうふうになっていたところで、私も2つの作品で関わらせていただいたのは、大変名誉であったなと思っています。

―― フィギュアスケートとコラボレーションして、新たな発見はありましたか。
萬斎 構成をいろいろとやっている段階で、ぼくと羽生さんと入れ違いに、交互に演技をするときに、音の切れ目があってバシッとこちらはいきたいんだけれども、スケートってすぐに演技ではなくて、ちょっと初速をつけるための準備動作が必要になるので、その分の間が必要だっていうことはちょっとなるほど、と。地上にいるとスッと動けるのが、氷の上だともうひとかきしてからいくというタイムラグがあるのが新鮮でした。

―― そのあたりはどのように調整を?
萬斎 スモークを出したり、こちらも去り際を少し派手にしたりということですけれども。羽生結弦さんと今回仕事をして、前に対談させていただいたときに、今日「SEIMEI」で「天・地・人」と始めたのも、その対談のときにぼくが「天と地と人を司る」というか、空間と時間を操る、音楽をまとうなんて話をしたことをすごく思い出しました。羽生さんがアイスショーをいろいろいまやプロデュース、演出もされていくなかで、まさしく天地人を司っていらっしゃるなと、非常にそういう意味で成長されている姿を頼もしく思いました。

―― 対談から10年、「SEIMEI」のプログラムも10年目です。
萬斎 あのころはまだ、ぼくとしゃべっているときも、もちろん彼のなかに内包されているものなんだけど、まだ言語化されていなかったし、それが多少私の言葉も含めて、だんだんに殻が破れて、芽が出て、まさしくいま花開いているなと。そういうような思いで、素晴らしいなと。我々、年を老いていくわけですよね。次なる人々がいろんな意志を継いでくださるというようなことで、とてもうれしく思いますね。ぼく自身も先人から能や狂言の知識であるとかを受け取って、経験のなかでぼくが思っていた思いを彼が受け取ってくれて、それをこういうかたちの素晴らしいショーにして、かつ、鎮魂という大きなテーマがあるということが素晴らしいですね。ぼくは、つくづく思うんですけれども、最後のあいさつを聞いていても、“職業・羽生結弦さん”と私は最初にお呼びしたんですけれども、私も“職業・野村萬斎”と名乗っているものですからね。ぼく自身も日本の伝統文化を背負って生きているつもりです。彼の場合は、また彼なりの何か非常に大きなものを背負っている。そういう意味でね、公人というか、公の人というか、単なる個人の活動という枠を越えているところが素晴らしいなと思っていますね。彼のスケートに留まらない意志、発想、行動力、そういうものが凝縮された素晴らしいショーであったなと思います。職業・羽生結弦はますますもっと彼のできることを成し遂げていくんだろうなと思いますよね。それは本当にありがたいことですね。

―― 以前、羽生さんとの対談で「我々は省略の文化だ」ということをおっしゃっていたんですけれども、「MANSAIボレロ」に省略の文化をあてはめる際に意識したことはどういったことですか。
萬斎 「ボレロ」はいろんな作り方をするうちに、どんどんどんどんそぎ落としていったのは事実ですね。ですから、元々には能狂言にある「翁・三番叟」が元にあるんですけど、それを3.11を含めた祈りに変換していくという作業のなかで、具体的にじつは子どもを抱き上げて助けを求めたりとか、苦しいなかにも花は咲くよとか、雨も降るよと、夏も来るよと、そういうようなイメージで、多少具体的にしながらも、それを抽象的な概念にしていって、最終的に人間の一生が垣間見られ、死からもう一回次の生に飛翔する、それが最後のジャンプにつながるような意味合いをこめているわけですね。見ていると、非常に抽象的に見えるかもしれませんけれども、そういう思いで見ていただくと、なにか特別に見えてくるものもあると思うので、ぜひ「ボレロ」も続けて共演できるといいですね。

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