全日本選手権で、鍵山優真選手(オリエンタルバイオ/中京大学)が初優勝を果たしました。北京オリンピック銀メダルや2024年世界選手権2位など、日本人最高位となる国際大会での活躍が先行していた鍵山選手にとって、7年目の全日本選手権で初めて手に入れた全日本タイトル。キス&クライで喜ぶ鍵山選手と、その隣で感極まって涙する父の鍵山正和コーチの横には、昨シーズンからコーチを務めるカロリーナ・コストナーさんが微笑んでいました。選手時代に数々のメダルに彩られたキャリアを築き、イタリアの至宝とも称せられるカロリーナさん。その後もプロスケーター、指導者として活躍し、鍵山選手のコーチに着任してからは表現とスケーティングの向上を手助けしてきた彼女に、話を聞きました。
自分との戦いに打ち勝った優真が誇らしい
カロリーナ・コストナーは、2012年ニース世界選手権優勝、2014年ソチ・オリンピック銅メダルをはじめ、15年以上にわたるキャリアを通して数限りないほどの栄光に包まれ、優雅な個性とこのうえなく美しいスケーティングで知られてきたレジェンドだ。指導者としても、日本スケート連盟の招きでジュニアの強化合宿や、ノービス選手を野辺山合宿で指導するなど、日本選手のために尽力してきた。現役時代に振付師ローリー・ニコルのプログラムを滑り続け、ローリーのミューズでもある彼女。ローリーのプログラムを滑るようになった鍵山が、誰よりも振付の真髄を知るカロリーナの指導を受けるのも自然な流れだった。
今シーズンは鍵山のすべての国際試合に帯同し、12月の全日本選手権へやってきたカロリーナ。待望の全日本優勝を果たした愛弟子の成果を、コーチとしてこう語る。
「とてもうれしく思っています。優真は、自分自身の迷いを乗り越えることができました。楽なことではありませんでしたが、自分自身の戦いと向き合い、感情と向き合うときにこそ、自分のことがよくわかるようになるものなんです。もちろん忍耐も決意も必要ですし、“No risk, no fun(リスクなくして楽しさなし)”で、たとえ自信がなくてもその場に出ていかなくてはなりません。ブレードの薄さを考えれば、完全に自信をもって氷に出ていくことなんてないのかもしれない。でも、彼が自分の戦いに打ち勝ち、心から演技をし、自分ができることを全部出すことができたのが誇らしいです。こうした困難な瞬間にこそ、チャンピオンになる方法を学ぶことができるのだと思います」
正和コーチも全日本選手権の優勝経験(3回)があり、この優勝で父子揃っての全日本チャンピオンに。プレッシャーにならないよう、息子に明かすことはなかったが、正和コーチは並々ならぬ思いで今回の全日本に臨んでいた。鍵山がキス&クライから立ち上がったあと、夢がかなう瞬間を目の当たりにして涙を流す正和コーチに、カロリーナはそっと寄り添い、ねぎらった。
「毎日、2人がスケートに注いでいる情熱は途方もないほどです。その情熱を私は毎日見ています。2人の絆、団結、同じ目標に向かって進んでいくこと。優真はお父様にインスパイアされているし、お父様は優真のたしかな錨となっている。父と子の歴史的な瞬間を近くで見ることができて、私にとっても特別な瞬間でした」