日本の夏はアイスショーが目白押し。世界中からトップ選手たちが集結し、卓越したパフォーマンスで各地のファンを湧かせます。そのいっぽう、日本から海外へと飛び立ち、異国の地のアイスショーで輝きを放つスケーターたちもいます。全日本選手権への出場経験があり、現在はコーチとして活躍する石塚玲雄さんと、東日本選手権などで活躍し、今年3月に現役を引退したばかりの依田茉里紗さんは、イギリス・ブラックプールで7月4日~9月7日にかけて開催された「HOT ICE」に出演しました。イギリス最大のリゾート地でショースケーターとしてのデビューを果たしたお2人のインタビューを、ショーレポートとともに現地からお届けします。
イギリス最大のリゾート地、ブラックプールへ
「HOT ICE」が開催されるブラックプールは、ロンドンのEuston駅から特急で約3時間の場所にある海沿いのリゾート地。ボールルームダンスの聖地として、映画「Shall we ダンス?」にも登場する。田園風景を眺めながら特急に揺られていると、突如カラフルなゲストハウスや観覧車、ジェットコースターのレールが現れる。この賑やかな風景こそブラックプールの象徴と言えるだろう。「HOT ICE」の会場となるアリーナはこのイギリス最大級の遊園地PLEASURE BEACH RESORTの中にあり、日曜日以外の週6日、毎日2回の公演が行われていた(マチネは50分、ソワレは50分+50分の二部制)。アリーナのロビーではホットドッグやフライドポテトが売られており、まさに遊園地のフードコートといった雰囲気で、どこかのんびりとした空気が漂っている。だが、いざショーが始まると、のどかなリンクはゴージャスなショーの世界に変貌するのだ。
ミステリアスで壮大なアイスショー「HOT ICE」
黒い衣装を身にまとったスケーターたちがリンクを周回するミステリアスなショーの幕開けから、すぐに日本では見たことのないようなゴージャスな衣装で女子スケーターたちが登場。シースルーのタイツの上にラインストーンの飾りがあるだけの大胆なコスチュームでスパイラルなどを次々に披露する。そのなかには日本の依田茉里紗(2022年、東日本選手権12位)や、ペアの中国代表として世界ジュニア選手権優勝やオリンピック出場を経験したユー・シャオユーの姿もあった。男子スケーターがタノルッツやイーグルなどで会場を湧かせると、大きな羽飾りを背負った女子スケーターたちが再び登場。豪華絢爛なオープニングで観客を引き込んだ。
次に男子だけのナンバーに移り、石塚玲雄が冒頭の見せ場を担当。ダブルアクセルなどのジャンプをキレよく決め、持ち前のショーマンシップで存在感を見せる。ユー・シャオユーはペアのリフトを披露し会場を湧かせた。次第に会場には火のにおいが漂い、松明のような小道具を持ちながらのパフォーマンスが展開され、サーカスさながらの世界観に変わっていった。
蛇を思わせる衣装に身を包んだ女子スケーターと男性スケーター1人による妖艶な見せ場があったのち、男性スケーターのソロパートへ。計5人が代わる代わるソロを披露するナンバーのトップバッターもまた石塚が担っていた。目線の送り方や首の振り方も情熱的で、観客の目線を釘付けにする。
その後、ユー・シャオユーが赤い衣装で「ジュピター」を熱演したり、男子スケーター2人によるロックテイストのプログラムが披露されたのち、大トリのナンバー「Valhalla」へ。檻のような大掛かりな装置のなかでスケーターが踊り、さらに水やシルクを使った演出で魅せると、50分のショーはあっという間に幕を閉じた。
日本のアイスショーとは一味違う神秘的でアーティスティックなエンターテインメント。個々の表現力が存分に発揮されつつも、最初から最後まで徹底して崩れることのない唯一無二の世界観に、「アイスショー」の無限の可能性を見たひとときだった。