アイスダンスの強豪チームを数多く擁し、世界のメダリストを続々と輩出するアイスアカデミー・オブ・モントリオールの“生みの親”と呼ぶべき存在が、ロマン・アグノエルさんです。コーチ、コリオグラファーとして、幼いころからガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組(2022年北京オリンピック金メダル)を育て、やがて彼らとともにフランス・リヨンからカナダ・モントリオールに拠点を移す決断をします。そこで、現役時代はカナダ代表としてチームを組み、引退後コーチに転じたマリ=フランス・デュブリュイユさん、パトリス・ローゾンさん(2007年世界選手権2位)と合流。彼らは協力し合いながら、今日の隆盛の礎となるアカデミーを始めました。
“アイスダンスのメッカ”と呼ばれるほどの発展を遂げたモントリオール。現在、世界トップクラスが切磋琢磨する環境のなかで練習しているチームのひとつが、日本の田中梓沙&西山真瑚組(ともにオリエンタルバイオ)です。怪我に苦しみながらも、四大陸選手権まで戦い抜いた田中&西山組の今シーズンのフリーダンス「エリーゼのために」とリズムダンス「September, Sir Duke, Land of 1000 dance」を振付けたのもアグノエルさん。それぞれのチームの段階に応じて教え導く指導者として、クリエイティブな振付でスケーターの個性を伸ばすコリオグラファーとして、どんなふうに見守っているのかを、ソウルの四大陸選手権で伺いました。
速く、強く、進化していかなくてはならない
―― アイスダンスの田中梓沙&西山真瑚組(オリエンタルバイオ/オリエンタルバイオ)は、2024-2025シーズンで結成2季目を迎えました。今シーズンは田中選手の怪我があり、タフな日々を過ごしてきた2人でしたが、ここ四大陸選手権でシーズンをしめくくりますね。
「今シーズンへ向けてスタートを切ったころは、振付にも非常に早いうちから取り組むことができ、いい調子で進んでいました。でも7月に、梓沙が怪我を負ってしまい、しかもその後にも怪我が続いてしまいました。肋骨にも問題が出て、彼らは夏のあいだ、練習らしい練習ができなくなってしまった。NHK杯(11月8~10日/東京)に向けて、なんとか最低限の練習で切り抜けて、NHK杯でできる限りのものを見せるというのがシーズン序盤の方針でした。よくがんばったと思いますよ。けれど、やはりスピードと鋭さを備えるためには、繰り返しが必要です。練習の反復をすることができなかったために、なんとかやり遂げたという出来になった。四大陸のリズムダンスでも、転倒があったのと、スピードがちょっと足りなかった。彼らは本当に注意深く状況に対処しなければならなかったんです。梓沙は肋骨の痛みで、リフトはもちろん、息をするのもつらいほどでした。難しい状況のなかでも、できる限りのベストを尽くすことができたと思います。今シーズンは2人のコネクションが向上したし、進歩が見られました。来シーズンに向けてよりコンペティティブになっていくために、よりしっかりと練習ができたらいいと思っています。来シーズンはオリンピックシーズンですからね。2人には日本の若く可能性ある2組のアイスダンスチームの一角として、いい戦いをしてほしいと願っています」
―― そのなかでも、アジア大会(2月11~13日/中国・ハルビン)で3位でメダルを獲得するといううれしいニュースもありました。
「とてもうれしく思っています。とにかく元気でいることが大事ですよね。練習でも、怪我がひどいあいだは、リフトやスピンを抜いてランスルーを滑っていたんですよ。そうするとかなり感じ方が違う。まずは健康を取り戻すことが優先順位の1位で、そのうえで練習を積んでいければ、きっといい方向に進んでいくでしょう」