2025年12月17日
岡山生まれの凛々しきスケーターが、全日本で競技生活にピリオド

STORIES2025③木科雄登「最後、かっこいい姿で」

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フィギュアスケート界に多くの才能を送り込んできた岡山に生まれ育ったスケーターが、この全日本選手権で引退を迎えます。木科雄登選手、2001年生まれの24歳。全日本選手権には、2016年に全日本ジュニアで4位になって推薦で初出場、それから欠かさず年末の大舞台を踏み、今回が10回目の連続出場となる、全日本の顔の1人です。いっぽうでは、近年、高橋大輔率いる「滑走屋」や「氷艶 hyoen」などアイスショーにも出演し、思わず目が惹きつけられるようなパフォーマンスを披露してきました。その彼が、競技生活を引退します。

無良崇人に憧れ、同い年の仲間とともに

木科雄登は、岡山の無良隆志コーチのもとでフィギュアスケートを始め、同門の兄弟子である無良崇人の背を追って練習に励み、同い年のリンクメイト島田高志郎、三宅星南らとともに、ノービスのころから名前が知られるようになった。キレのいい動きと、兄弟子をほうふつとさせる大きなジャンプ。「雄登」という名前の響きの通り、ジュニア時代からスケールが大きく凛々しいパフォーマンスを持ち味としてきた。

ジュニア時代にはジュニアグランプリシリーズなど国際大会を経験、全日本ジュニアでもシングルナンバーの順位に。シニアに上がる少し前の高校3年のとき、さらなる進歩を求めて濱田美栄コーチのもとに移籍し、その後関西大学、同大学院に進学。故郷から関西へ拠点を移し、ときに思うように進まないシーズンを経験しながらも、歳を重ねるごとに繊細な表現をも手に入れ、オールラウンダーに成長していった。

昨季の終わりに、「次のシーズンを最後にする」と明言。迎えた今シーズン、近畿ブロックではSPでジャンプ3本をすべて着氷、フリーでは少し乱れが出て5位。西日本選手権ではしっかりとした試合運びで7位となり、10回目の全日本への出場権を勝ち取った。懸ける思いは格別だ。

やっぱり競技者として、いい演技をして、いい得点を出し、いい順位に行くということは求めていかなければならないと思っています。でももしミスが出たとしても、いいプログラムだったとか、もう1回見てみたいとか、そんなふうに思ってもらえる演技をすることが大事かなと思う。

スケートを始めたときからお世話になってきた無良隆志先生、それから崇人くんは、ぼくのことを本当にずっと気にかけてくださって。西日本のフリーでも、演技の直前、無良先生に『頑張れよ』って握手してもらってから行ったんです。

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自分のありのままのスケートを

ラストシーズンのショートプログラム「Give Me Love」は村元哉中の振付で、昨シーズンから2季続けて滑るプログラム。エド・シーランが歌うエモーショナルなボーカルに自身の感情を託して滑る。フリーには、多くの名プログラムが生まれたことでも知られるColdplayの「Fix You」を選んだ。

ショートプログラムは、昨季からブラッシュアップして、「滑走屋」でいろいろな振付に挑戦させていただいて学んだ部分も生かしています。自分のスケートをのびのびと見せる部分もあれば、音を取ってステップをする部分もあり、密度の濃いプログラムです。フリーの「Fix You」は、本当に自分のありのままのスケートを見せるプログラム。音が鳴った瞬間に『もうスケート終わっちゃうんだな』みたいな感情が湧いてくるような曲でもあるので、試合ではそのときの自分の感情で、演技に違いが出てくるかもしれないですね。

ショートもフリーも、どちらもなんだか引退っぽいイメージのある曲だと思うんですけれど、たくさんのスケーターが滑ってきて、それぞれ違うものを表現してきたなかで、ぼくはぼくのスケート人生であったり、スケートが好きだという気持ち、それからこれまでスケートをさせてもらってきた家族やスポンサーさん、コーチや仲間、ファンの方々、すべての方に感謝の気持ちを込めて滑りたい。ぼくがスケートをしていて、よかったなと思ってくれる人が少しでもいればいいなと思っています。

同じリンクで育った同い年の仲間たちは、時期は前後しながらも、岡山を離れてそれぞれの方向に進み、それぞれのキャリアを築いてきた。島田はアイスダンスに転向し、今回男子シングルに出場するのは木科と三宅の2人だ。日本男子の分厚い選手層に挑み、ときに跳ね返されながらも、切磋琢磨してきた日々が木科の支えになっている。

高志郎や星南、同い年の同期のみんなとはずっと長いことやってきて、懐かしい思い出もたくさんあります。ぼくが辞めるからではないけど、なんだかひとつの時代が終わるのかなというような気がしていて、今年はオリンピック選考の全日本だから、ジュニアグランプリ、全日本ジュニア、全日本とか、いろんな試合をずっと一緒に戦ってきたぼくたちの世代から、オリンピック代表が出てほしいという思いもあります。(友野)一希くんも、(山本)草太くんもそうですよね。ひとつの時代を、自分がプレイヤーとして、最初から最後まで見届けられるということは、すごく幸せなことだと思っています。

競技者としては正真正銘、全日本が最後。年明けの大会への出場なども予定はしていない。19年の競技生活に最高峰の舞台で終止符を打ち、そこから離れるという決断にもまた、きっぱりと潔い木科らしさが表れているといえるだろう。

フィギュアスケートには本当にいろいろなことを経験させてもらいました。競技はもちろん、大学などで指導をさせてもらったり、またここ数年はショーにもたくさん出演させていただいてきたなかで、自分のなかでは『スケートから学べることはすべて学べた』という気持ちが育ってきた。『スケートは楽しかったな』という思い出をもって、これまでとは違う人生を歩いていきたいと思っています。

ぼくの成績がよかった時期から応援してくれている方もいれば、ここ数年で、アイスショーなどを見て、ファンになってくださった方もおられます。数ある選手のなかから、何かぼくのことがいいと思って応援してくれている人たちの期待を裏切らないように、最後、かっこいい姿で終わりたいと思っています。絶対に見に来てほしいです。

プロフィール
木科雄登 きしな・ゆうと 2001年10月15日、岡山生まれ。関西大学所属。無良隆志、無良千絵らのもとでスケートを始め、シニアに上がる時期に関西に拠点を移し、現在まで濱田美栄、佐藤洸彬、村元小月に師事する。2014年全日本ノービスA3位、2016年、2018年、2020年全日本ジュニア4位など早くから成績を挙げ、ジュニアグランプリシリーズにも出場して、2018年リトアニア大会3位など国際舞台でも成果を収めた。全日本選手権には2016年の初出場以来、2025年まで10回連続で出場。
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